
『等加速度直線運動(とうかそくどちょくせんうんどう)』とは、「物体がずーっと一定の加速度で直線上を進む運動」でしたね。
速度の変化が一定、というシンプルな直線運動でしたが、現実にこんな運動はあるんでしょうか?
実は、わりとあるんですよ。
一番身近な例は、『落下運動(らっかうんどう)』でしょう。
誰でも物を落としたことがありますよね。
机の上から消しゴムを落としてしまったり、橋の上から小石を落としてみたり。
そのとき、物体は速度をどんどん増しながら落ちていきます。
つまり、加速度運動なんですね。
落下する様子を写真に撮ったり、学校の授業で記録タイマーを使った簡単な実験をすると、落下運動=等加速度直線運動であることが分かりますよ。
物理基礎で扱う落下運動は、鉛直方向の運動で3つあります。
今回は、『自由落下(じゆうらっか)』と『鉛直投げ下ろし(えんちょくなげおろし)』の2つについて学んでいきましょう。
目次
落下運動と重力加速度
さっきは、落下運動は等加速度直線運動ですよ、とお話しました。
落下運動の加速度は、どれくらいの大きさなんでしょうね?
落下運動をイメージしてみてください。
何か物を落としてみてもいいですよ。
物体を手に持って何も勢いをつけずに手を離しましょう。
何度やっても物体は同じ落ち方をしますね。
誰がいつどこで何を落としても、いつも真下の向きに落ちるし、その加速度は同じなんです。
落下運動の加速度は特別なんですね。
ところで、落下運動はなぜ起こるのでしょう?
そう、地球が物体を引っ張る重力があるからですね。
なので、落下運動の加速度は『重力加速度(じゅうりょくかそくど)』と呼ばれていますよ。
記号は重力を表す”gravity”の頭文字のgを使います。
図1 物体の落下と重力加速度
重力加速度の大きさは、地球上ではg=9.8 m/s2(メートル毎秒毎秒)ですよ。
この値は、物体の形や大きさや質量に関係なく一定となります。
つまり、落下運動=加速度gの等加速度直線運動なんですね。
1秒ごとに落下速度が9.8 m/s(メートル毎秒)ずつ増えるなんて、物があっと言う間に落っこちるわけです。
では、落下運動の例である『自由落下』と『鉛直投げ下ろし』について見ていきましょう。
自由落下
自由落下とは
『自由落下』とは、どのような落下運動なんでしょうね?
自由落下を英語にすると”free fall”。
遊園地にあるフリーフォールですよ。
一度乗りましたが、「これが自由落下か・・・重力加速度か・・・」
なんて考える余裕はありませんでした!
さて、『自由落下』の物理学的な条件はこうなりますよ。
- 初速度v0=0
- 鉛直下向きの加速度がg=9.8 m/s2
図2 自由落下運動
自由落下は、勢いをつけずに初速度v0=0で物体がポトーンと落ちるのです。
「静かに落とした」のように、「静かに」と書いてあるときも初速度v0=0なので、覚えておきましょうね。
そして、物体は地球から鉛直下向きの重力を受けています。
物体に重力しか働いていなければ、鉛直下向きに落下しますね。
なので、自由落下では物体が落下する鉛直下向きを正として、鉛直下向きの重力加速度が正の値g=9.8 m/s2となるわけです。
物理では、向きの正負を自分で決めることが良くありますよ。
正の向きを決めるコツは、
- 初速度の向きを正とする
- 初速度=0の場合は動く向き(自由落下なら鉛直下向き)
- 初速度の向きや動き出す向きが分からない場合はどちらでも良い
ところで、「鉛直下向き」とただの「下向き」とはどう違うのでしょうか?
鉛直下向きと下向きの違い
「鉛直」とは、おもりを糸でつるしたときの糸の方向、つまり重力の方向です。
正確に重力の働く方向を示したいときに、「鉛直下向き」と書きますよ。
物理では斜面が出てくることがよくありますね。
そのとき、斜面にそった下向きを「斜面下向き」と言います。
図3 鉛直下向きと斜面下向き
ただの「下向き」では「鉛直下向き」か「斜面下向き」か分からないので、きちんと使い分けるようにしましょうね。
「上向き」も同じですよ。
「鉛直」についてもっと詳しく知りたい方は、こちらへどうぞ。
さて、理解を深めるために、自由落下運動をグラフにしてみましょう!
自由落下のv–tグラフと速度を求める式
図2の運動をv–tグラフにするとこうなりますよ。
図4 図2の自由落下運動のv–tグラフ
等加速度直線運動のグラフにそっくりでしょう?
初速度v0=0、グラフの傾き=加速度gの等加速度直線運動ですからね。
このv–tグラフから、時刻tでの落下速度v(速度”velocity”の頭文字)は、
v=gt
ということが分かりますよ。
ところで、等加速度直線運動のv–tグラフと横軸で囲まれた面積は、t=0での位置x0からの変位Δx(Δ(デルタ)は変化量を表すギリシャ文字)になるのでしたね。
同じように、自由落下のv–tグラフと横軸で囲まれた面積は、t=0での位置y0(落下を始めた点)からの変位Δyになりますよ。
自由落下のv–tグラフと位置を求める式
v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、y0(t=0での位置)からの変位Δyですね。
そこから、時刻tでの位置yを求めてみましょう。
その前に、今回のような鉛直方向の「変位」と「位置」の関係について、図で整理しておきますね。
しつこいですが、「変位」と「位置」の違いは大事ですよ!
計算間違いのもとになりますからね。
鉛直方向の変位と位置の違い
鉛直方向に落下する物体が、時刻t=0に位置y0を通過し、時刻tでは位置yに着いたとしますよ。
時刻t=0から時刻tまでの変位Δy=y-y0と、時刻tでの位置yはこういう関係になりますね。
図5 鉛直方向に落下する場合の変位Δyと位置y
時刻tでの位置yと変位Δy=y-y0が一致するのはy0=0(原点)のときだけですよ!
自由落下の問題では、時刻t=0で落下し始めた点y0を原点とすることが多いです。
でも、たまにy0と原点がずれていて、位置の計算を間違うことがありますよ。
「変位」と「位置」は違う、ということをしっかり理解してくださいね。
では、v–tグラフから時刻tでの位置yを求めてみましょう!
v–tグラフから求める変位と位置
図4のv–tグラフと横軸で囲まれた面積はこうなりますね。
図6 v–tグラフと横軸で囲まれた面積=y0からの変位Δy
v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、色をつけた三角形の面積ですね。
この面積が時刻t=0から時刻tまでの変位Δy=y-y0なので、
Δy=y-y0=\(\frac{1}{2}\)gt2
つまり、時刻t=0に位置y0から自由落下した物体が時刻tに達する位置yは、
y=y0+\(\frac{1}{2}\)gt2
この式を使って自由落下している物体の位置の時間変化をy–tグラフにしたのが図7です。
図7 自由落下のy–tグラフ
時間が経つにつれて、ギュイーンと加速して落下する様子が良く表されていますね。
そして、時刻tでの落下速度v=gt、つまり、t=\(\frac{v}{g}\)を時刻tでの位置y=y0+\(\frac{1}{2}\)gt2に代入すると、
v2=2g(y-y0)
が導かれるわけです。
この3公式は、等加速度直線運動の公式で位置xをy、x0をy0、初速度v0=0、加速度a=gと置きかえたものですね。
次に、鉛直投げ下ろしについて見ていきましょう。
鉛直投げ下ろし
鉛直投げ下ろしとは
『鉛直投げ下ろし』は、初速度をつけて物体を鉛直下向きに投げ下ろしたときの落下運動です。
さて、『鉛直投げ下ろし』の物理学的な条件はこうなりますよ。
- 初速度v0≠0
- 鉛直下向きの加速度がg=9.8 m/s2
図8 鉛直投げ下ろし
自由落下との違いは、v0≠0だけなんですね。
なので、鉛直投げ下ろしでも物体が落下する鉛直下向きを正として、鉛直下向きの重力加速度が正の値g=9.8 m/s2となるわけです。
それでは、鉛直投げ下ろしのv–tグラフを描いてみましょう!
鉛直投げ下ろしのv–tグラフと速度を求める式
図8の鉛直投げ下ろし運動のv–tグラフは、初速度v0≠0、グラフの傾き=加速度gの等加速度直線運動のグラフになりますよ。
図9 図8の鉛直投げ下ろし運動のv–tグラフ
このv–tグラフから、時刻tでの落下速度vは、
v=v0+gt
ということが分かりますね。
そして、自由落下と同じように、v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、t=0での位置つまり落下を始めた点y0からの変位Δyになりますよ。
鉛直投げ下ろしのv–tグラフと位置を求める式
v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、y0(t=0での位置)からの変位Δyですね。
そこから、時刻tでの位置yを求めてみましょう。
図9のv–tグラフと横軸で囲まれた面積はこうなりますね。
図10 v–tグラフと横軸で囲まれた面積=y0からの変位Δy
v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、色をつけた台形の面積ですね。
この面積が時刻t=0から時刻tまでの変位Δy=y-y0なので、
Δy=y-y0=v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2
つまり、時刻t=0に位置y0から鉛直下向きに投げ下ろされた物体が時刻tに達する位置yは、
y=y0+v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2
この式を使って自由落下している物体の位置の時間変化をy–tグラフにしたのが図11です。
図11 鉛直投げ下ろしのy–tグラフ
鉛直投げ下ろしも、時間が経つにつれて加速しながらどんどん落下していきますね。
そして、時刻tでの落下速度v=gt、つまり、t=\(\frac{v-v_{0}}{g}\)を時刻tでの位置y=y0+v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2に代入すると、
v2-v02=2g(y-y0)
が導かれますね。
この3公式は、等加速度直線運動の公式で位置xをy、x0をy0、加速度a=gと置きかえたものですよ。
自由落下と鉛直投げ下ろしの公式は覚えなくてかまいません。
自由落下と鉛直投げ下ろしはどんな運動なのか、v–tグラフと等加速度直線運動の公式と合わせて理解すれば問題は解けますよ。
それでは、一緒に例題を2問解いてみましょう!
例題で理解!
g=9.8 m/s2として、次の問いに答えよ。
(1)川の水面に達する直前の小石の速度を求めよ。
(2)投げた場所から川の水面までの距離を求めよ。
「小石を初速度5.0 m/sで鉛直下向きに投げ下ろす」ので、鉛直投げ下ろしの問題ですね。
問題文に出てくる数値は有効数字2桁なので、答えも有効数字2桁にしますよ。
問題文に書かれている状況は、
- 時刻t=0 sのとき、原点Oを初速度v0=5.0 m/sで離れる
- 重力加速度g=9.8 m/s2で鉛直下向きに落下
- 時刻t=2.0 sのとき水面に着く
これを図にしてみましょう。
鉛直下向きに落下するので、鉛直下向きを正としますよ。
図12 例題1の図
この問題では、t=0 sのとき原点Oから落下していますね。
なので、原点からの変位Δy=時刻tでの位置y=落下距離ですよ。
この落下運動のv–tグラフはこうなります。
図13 例題1のv–tグラフ
ここまで分かったところで、問題を解いていきましょう。
(1)川の水面に達する直前の小石の速度を求めよ。
t=2.0での落下速度vを求めるので、図10より、v=5.0+9.8×2.0=24.6=25 m/s
正の値なので、鉛直下向きに25 m/sですね。
(2)投げた場所から川の水面までの距離を求めよ。
投げた場所から水面までの落下距離は、原点からの変位Δyにあたりますね。
つまり、図12で色をつけた台形の面積を求めるので、\(\frac{\left(5.0+24.6\right)×2.0}{2}\)=29.6=30 m
公式を使うとyo=0として、
y=vot+\(\frac{1}{2}\)gt2=5.0×2.0+\(\frac{1}{2}\)×9.8×2.02=29.6=30 m
次は、自由落下と鉛直投げ下ろしを組み合わせた問題ですよ。
重力加速度の大きさをg、鉛直下向きを正として以下の問いに答えよ。
(1)物体Bを落下させてから時間t [s]経った後の、Aから見たBの速度を求めよ。
(2)下方に障害物が無い場合、BがAに追いつくにはどんな条件が必要か。
(3)Bが落ち始めてからAに追いつくまでにかかる時間を求めよ。
ちょっと複雑な問題に見えますね。
問題文に書かれている状況を整理⇒図を描く⇒v–tグラフを描く、の流れで進めましょう。
問題文に書かれている状況は、
- Aは自由落下
- 時間t0 [s]後にBをAと同じ高さから初速度v0で鉛直下向きに投げ下ろし
- 重力加速度はg
- (2)(3)よりBはAに追いつくらしい
これを図にしてみましょう。
AもBも鉛直下向きに落下するので、鉛直下向きが正ですね。
Bを投げ下ろした時刻をt=0とします。
AはBが落下し始めるよりも時間t0前に落下し始めたのでしたね。
なのでAが自由落下し始めた時刻はt=-t0になります。
時刻t=0では、Aは時間t0だけ自由落下していますね。
つまり、時刻t=0でのAの落下速度vA=gt0となります。
図14 自由落下するAと鉛直投げ下ろしで落下するB
では、この状況をv–tグラフにしてみましょう。
図15 例題2のv–tグラフ
ここまで分かったら、問題を解いていきましょう。
(1)物体Bを落下させてから時間t [s]経った後の、Aから見たBの速度を求めよ。
Aから見たBの速度=相対速度ですね。
まずは、Aの落下速度vAとBの落下速度vBを求めましょう。
図12より、vA=gt0+gt=g(t0+t)、vB=v0+gtですね。
なので、Aから見たBの相対速度vAB=vB-vA=v0+gt-g(t0+t)=v0-gt0
(2)下方に障害物が無い場合、BがAに追いつくにはどんな条件が必要か。
Aより遅れて落下したBがAに追いつくためには、Bの落下速度がAより速くなければなりません。
つまり、vB>vAですね。
ですから、vB-vA=vAB>0ということです。
vAB=v0-gt0>0なので、v0>gt0
(3)Bが落ち始めてからAに追いつくまでにかかる時間を求めよ。
Bが落ち始めるまでの間に、Aはt0 [s]間自由落下していますね。
t0 [s]間でのAの変位は、時刻t=0でのAの位置です。
つまり、図16で色のついた三角形の面積から求められますね。
底辺がt0で高さgt0の三角形の面積なので、\(\frac{1}{2}\)gt02ですよ。
図16 Aがt0間自由落下した距離
BがAに追いつく=\(\frac{1}{2}\)gt02の距離を相対速度vABで追いつく、ということですよ。
なので、BがAに追いつくまでの時間をtとすると、t×vAB=\(\frac{1}{2}\)gt02より、
t=\(\frac{\frac{1}{2}gt_{0}^{2}}{v_{AB}}\)=\(\frac{gt_{0}^{2}}{2\left(v_{0}-gt_{0}\right)}\)
別の解き方もありますよ。
AとBは同じ位置から落下しました。
つまり、時間(t+t0)でのAの変位と時間tでのBの変位は同じですよね。
図17 AとBの変位
v–tグラフにすると、図18の緑色の三角形と紫色の台形の面積が同じということです。
図18 時間(t+t0)でのAの変位(左図)と時間tでのBの変位(右図)
時間(t+t0)でのAの変位は、緑色の三角形の面積=\(\frac{1}{2}\)g(t+t0)2
時間tでのBの変位は、紫色の台形の面積=v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2
この面積が同じなので、
\(\frac{1}{2}\)g(t+t0)2=v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2
\(\frac{1}{2}\)gt02=t(vo-gt0)
t=\(\frac{gt_{0}^{2}}{2\left(v_{0}-gt_{0}\right)}\)
自由落下と鉛直投げ下ろしは、等加速度直線運動が鉛直方向になっただけです。
難しいことは何もありませんよ。
仕上げに、理解度チェックテストにチャレンジしましょう!
自由落下と鉛直投げ下ろし理解度チェックテスト
【問1】
川にかかった橋の上から小石を静かに落下させると、3.0 s後に川の水面に着いた。
g=9.8 m/s2として、次の問いに答えよ。
(1)川の水面に達する直前の小石の速度と投げた場所から川の水面までの距離を求めよ。
(2)同じ場所から小石を鉛直下向きに投げ下ろすと、1.5 s後に川の水面に着いた。
投げ下ろしたときの初速度を求めよ。
まとめ
今回は、自由落下と鉛直投げ下ろしについてお話しました。
重力加速度とは、
- 物体が重力によって落下するときの加速度g(地球上ではg=9.8 m/s2)
自由落下運動とは、
- 初速度0の落下運動(加速度g)
- v=gt(時刻tでの速度)
- y=y0+\(\frac{1}{2}\)gt2(時刻tでの位置)
- v2=2g(y-y0)(vとyの関係)
鉛直投げ下ろし運動とは、
- 初速度v0で鉛直下向きに投げ下ろされた物体の運動(加速度g)
- v=v0+gt(時刻tでの速度)
- y=y0+v0t+\(\frac{1}{2}\)gt2(時刻tでの位置)
- v2-v02=2g(y-y0)(vとyの関係)
自由落下と鉛直投げ下ろしは鉛直下向きの運動なので、鉛直下向きを正として軸をとることに注意してくださいね。
次回は、鉛直方向に投げ上げられた物体の運動についてお話しますね。
こちらへどうぞ。