
車や電車のスピードを表すとき、速さという言葉をよく使いませんか?
「新幹線の速さは最高で時速300kmらしいよ」
「うん、最高速度は時速320kmなんだって」
なんて、よく耳にする会話ですね。
おや、先ほどの会話でちょっと引っかかるところがありますね。
『速さ』と『速度』という2つの言葉が出てきましたよ。
でも、新幹線の速さという同じ意味で使っているようです。
同じ意味なら、どうして違う2つの言葉があるのでしょうか?
不思議ですよね。
日常会話ではごちゃ混ぜで使われていますが、物理学的にはきっちり区別して使われているんですよ。
そこには、ちゃんと理由があります。
では、『速さ』と『速度』の物理学的な意味を見ていきましょう。
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目次
速さと速度
速さの求め方と単位
速さの計算方法は中学校で習いましたね。
あやふやになっていませんか?
例をあげて速さについて考えてみましょう。
1時間あたり自動車Aは50km走りましたが、自動車Bは80km走りました。
どちらが速く移動したかと言えば、自動車Bですよね。
同じ時間で進む距離が長いほど、速い運動をしたというわけです。
速さは、どれくらい速い運動なのか?ということを分かりやすく数値化したものなんですね。
1秒や1分、1時間などの単位時間あたりに進んだ距離で表します。
秒の単位は[s](秒を表すsecondの略)、分の単位は[min](分を表すminuteの略)、時間の単位は[h](1時間を表すhourの略)を使うので、覚えておいてくださいね。
では、時間t [s]の間に距離l [m]進んだとしましょう。
この間の速さv [m/s]は、距離を時間で割って、
v=\( \frac{距離}{時間} \)=\( \frac{l}{t} \)
となるわけです。
速さや速度を表す記号はvを使いますよ。
速度を表す”velocity”の頭文字ですね。
さて、例えば自動車が50mの距離を10sで走ったとしましょう。
速さは、50m/10s=5.0 m/sとなりますね。
さて、速さの単位として[m/s](メートル毎秒)が出てきましたね。
m/sの/(スラッシュ)は分数を1行で表したものと考えられるんですよ。
ですから、m/sという単位は、1秒あたり〇m進むという意味を持っています。
単位の書き方を見ると、計算方法が分かりますね。
速さの単位には、[m/s]の他に[m/min](メートル毎分)や[km/h](キロメートル毎時)などがあります。
[km/h]は自動車などの時速でよく聞きますね。
距離と時間の組み合わせ次第で、色々な速さの単位が作れますよ。
単位について詳しく知りたい方は、こちらの記事を読んでみてくださいね。
さて、速さの求め方は分かりましたが、どうして『速度』も必要なのでしょう?
速さと速度の違い
突然ですが、ここでクイズです!
図1の自動車の速さと速度を答えてください。
矢印とx軸の向きをよーく見ましょうね。
図1 自動車の速さと速度
いかがでしょうか?
「速さは20 m/sだけど、速度も同じじゃないの?」と思いますよね。
正解は、
- 速さは20 m/s
- 速度はx軸負の向きに20 m/s
(または単に-20 m/sと答える)
となります。
『速さ』は「〇m/s」と数値だけ答えればOKです。
『速度』は「××方向に〇m/s」と数値だけじゃなく向きも答えるのですね。
『速さ』はどれくらい速いのか?という数値は分かりますが、右に進むのか左に進むのか分かりません。
でも、『速度』であれば進む向きもはっきりわかるというわけです。
これが『速さ』と『速度』の違いですよ。
ところで、「向き」が入っているだけでなぜ『速さ』と『速度』という言葉を使い分けるのでしょうか?
物理の世界では、「向き」があるかどうかが重要なポイントになるんですよ。
『速さ』のように大きさだけを考えるものをスカラー、『速度』のように大きさと向きを合わせて考えるものをベクトルと言って区別しています。
スカラーには速さ、質量、時間、長さ、温度などがあります。
ベクトルには速度、加速度、力などがありますよ。
では、向きと大きさを合わせて考える速度の求め方を見ていきましょう。
速度の求め方と単位
『速度』には向きの情報が入っていましたね。
ですから、物体がどの方向に動いたか?をはっきりさせるために座標軸が必要になるわけです。
その座標軸上を物体が運動すると位置が変わりますね。
その「位」置の「変」化のことを変位(へんい)と言います。
『変位』は『速度』を考えるときの重要ポイントですよ。
変位と距離
x軸上(右向きが正)を自動車が走っているとしましょう。
最初は座標x1にいた自動車が座標x2に来たときの変位Δxは、
Δx=x2-x1
と決められています。
運動後の位置と最初の位置の差分になりますね。
Δ(デルタ)は差分や変化量を表すギリシャ文字ですよ。
「あれ?変位って距離と同じじゃないの?」と思いそうになりますが、違うんですよ。
距離は単なる長さですが、変位には向きの情報が入っているのです。
つまり、変位は座標軸に対して正のときも負のときもあるわけです。
例えば、図2を見てみましょう。
x軸上(右向きが正)を自動車が走っています。
(1)と(2)について、自動車が座標x1から座標x2に来たときの変位Δxを考えてみてください。
図2 自動車の変位
座標x1にいた自動車が座標x2に来たときの変位Δxは、Δx=x2-x1でしたね。
(1)の変位は、Δx=x2-x1=8.0 m-2.0 m=6.0 m
(2)の変位は、Δx=x2-x1=2.0 m-8.0 m=-6.0 m
変位には正負の符号がくっついて、向きを表しています。
変位の単位は距離と同じく長さを表す[m]や[km]を使いますよ。
(1)の変位はx軸正の向きに6.0 mで、(2)の変位はx軸負の向きに6.0 mでした。
移動した距離は同じ6.0 mなのに、変位は全く違うのですね!
変位と距離の違いについてまとめておきましょう。
図3のようにx軸上(右向きが正)をある人物が歩いています。
図3 変位と距離
原点0→A地点まで歩いたとき | 原点0→B地点まで歩いたとき |
距離:5.0m 変位:x軸負の向きに5.0m |
距離:5.om 変位:x軸正の向きに5.0m |
※座標軸が正の方向に動くときは、距離と変位は正の値になって見かけ上区別できないので注意です!
変位について、ひとつ面白い例がありますよ。
ランナーがグラウンドの400mトラックを一周しました。
このときの移動距離と変位はそれぞれいくらになりますか?
400mトラックを1周したのですから、移動距離は400mですね。
変位はどうでしょうか?
ランナーはトラックを1周したので、最初の位置に戻っていますね。
運動後の位置は最初の位置と同じですから、変位は0となりますよ。
図4 400 mトラックの変位と距離
変位は、途中の道のりを一切考えません。
最初の位置と運動後の位置だけを考えるので、こんな面白いことが起こるのですね。
さて、長らくお待たせいたしました!
速度の定義に入っていきましょう。
速度の定義と単位
最初に、物理学的な速度の定義を書いておきますね。
x軸上(右向きが正)を自動車が走っています。
最初に座標x1にいたときの時刻をt1、座標x2に来たときの時刻をt2としますよ。
座標x1→座標x2へ移動するのにかかった時間Δtは、
Δt=t2-t1(Δt>0)
となりますね。
速度vは、このように定義されます。
v=\( \frac{変位}{時間} \)=\( \frac{\it{\Delta} x}{\it{\Delta} t} \)=\( \frac{{x}_{2}-{x}_{1}}{{t}_{2}-{t}_{1}} \)
変位の単位は距離と同じく長さを表す[m]や[km]などでしたね。
それを時間で割ったものが速度ですから、速度の単位は速さの単位と同じく[m/s]や[km/h]になりますよ。
定義だけではちょっと分かりにくいので、次のような例を考えてみましょうか。
図5のように、x軸上(右向きが正)を自動車が走っていますよ。
(1)と(2)について、自動車が座標x1から座標x2に来たときの速度vを求めてください。
図5 自動車の速度
時刻t1に座標x1にいた自動車が時刻t2に座標x2に来たときの速度変位vは、v=(x2-x1)/(t2-t1)でしたね。
(1)の速度は、v=(8.0 m-2.0 m)/(4.0 s-1.0 s)=6.0 m/3.0 s=2.0 m/s
(2)の速度は、v=(2.0 m-8.0 m)/(4.0 s-1.0 s)=-6.0 m/3.0 s=-2.0 m/s
速度には正負の符号がくっついて、向きを表していますね。
(1)の速度はx軸正の向きに2.0 m/sで、(2)の速度はx軸負の向きに2.0 m/sというわけです。
動く向きと座標軸の向きが同じなら速度は正、動く向きと座標軸の向きが反対なら速度は負になりますよ。
さて、速さと速度の単位は[m/s]や[km/h]など色々あるのでした。
でも、比べたい速度の単位がバラバラだと、どれが速いのか分かりにくいですね。
そんなときは、単位を変換して同じ単位にそろえてから比べます。
単位を変換する方法を紹介しますね。
単位の変換
単位の変換のポイントは3つありますよ。
- 変換前後の単位を確認する。
- 変換前後の単位の関係式を調べる。
- 関係式を代入する。
では、3つのポイントの通りに実際にやってみましょう!
例えば、3.6 km/hは何m/sでしょうか?
1.変換前後の単位を確認する。
変換前は3.6 km/hですから、1 h(時間)あたり3.6 km進みます。
変換後は?m/sですから、1 s(秒)あたり何m進むかということですね。
2.変換前後の単位の関係式を調べる。
kmとmの関係は、1 km=1000 mでした。
hとsの関係は、1 h=60分=60×60 s=3600 sとなりますね。
3.関係式を代入する。
3.6 km/hに、2.で調べた関係式をそのまま代入しましょう。
3.6 km/h=(3.6×1000 m)/h=(3.6×1000 m)/(3600 s)=1.0 m/s
3.6 km/hは1.0 m/sというわけですね。
では、例題を解いて理解を深めましょう。
例題で理解!
東向きを正としたときの速度を+と-の符号を使って表せ。
(2)自動車が72 km/hで走っている。この自動車の速さは何m/sか。
(1)速度の問題ですから向きと数値を考える必要がありますね。
図にするとこうなります。
「東向きを正とする」と問題文に書いてあります。
東向きが+、西向きが-というわけですね。
Aさんが+4.0 m/s、Bさんが-3.0 m/sとなります。
(2)72 km/hは、1 h(時間)に36 km進む速さですね。
1 s(秒)あたりに直すと何m進むかということです。
1 h=60×60 s、1 km=1000 mですから、
72 km/h=72 km/1 h=(72×1000 m)/(60×60 s)=20 m/s
では、理解度チェックテストにチャレンジしてみましょう!
速さと速度理解度チェックテスト
【問1】
下図のx軸上を自動車が左向きに走行している。
自動車が3.0 s間にx1=9.0 mの位置からx2=3.0 mの位置まで移動した。
この間の変位と速度を求めよ。
【問2】
次の問いに答えよ。有効数字に注意すること。
(1)36 km/hは何m/sか。
(2)84 cm/min(センチメートル毎分)は何m/sか。
(3)72 cm/s(センチメートル毎秒)は何km/hか。
まとめ
今回は、速さと速度の違いについてお話しました。
速さとは、
- 単位時間に進む距離を表したもので、v=距離/時間
- 大きさを表すスカラー量なので、正の値
速度とは、
- 単位時間あたりの変位を表したもので、v=変位/時間
- 大きさと向きを表すベクトル量なので、動く向きと座標軸の向きが同じならば正、動く向きと座標軸の向きが反対ならば負
次回は、平均の速度と瞬間の速度についてお話しますね。
こちらへどうぞ。