
今回から、『波』(または『波動(はどう)』)について学んでいきましょう。
世の中は、波にあふれているんですよ。
まずは、海岸に打ち寄せる、波。
音も音波(おんぱ)という波ですね。
音波は目に見えませんが、例えば糸電話。
糸電話で相手の声が聞こえるのは、糸が振動して音波を伝えているからですよ。
人間が話す声も、空気を振動させて音波として伝わっていますね。
よく使っているスマートフォンも電波という波を用いて通信をしますよね。
それから、中学生の理科で勉強した地震。
これも、地震波という波です。
P波、S波。なんて言葉覚えてますか?
波は、私たちの生活と深く関わっているんですね。
波動の分野は、力学のような難しい計算はあまりありませんよ。
イメージで問題が解けるので、実はとっても簡単なんですね。
ただし、覚える用語がちょっと多いのです。
今回は、『波』を表す用語をマスターしましょう!
目次
波の発生と伝わり方
波の定義
さて、『波』とは何でしょうか?
物理学的に言うと、「ある場所に生じた振動や変化が周りに次々と伝わっていく現象」のことですね。
例えば、静かな水面に小石をポトンと落としてみましょうか。
すると、小石が落ちた場所を中心として波紋(はもん)が広がっていきますね。
図1 水面を伝わる波
このように、ある場所で生じた振動が次々に周りに伝わっていく現象が『波』なのです。
最初に振動を始めた場所(ここでは小石が落ちた点)のことを『波源(はげん)』と言いますよ。
そして、波を伝える物質のことを『媒質(ばいしつ)』と言います。
水面を伝わる波では水、ロープを伝わる波ではロープ、空気中を伝わる音では空気が媒質になりますね。
次は、ピンと張ったロープを使って考えてみましょう。
ロープの端を持って上下に1回振動させますよ。
ロープには山と谷のような形が1つずつできて、時間とともに横へと伝わっていきますね。
図2 ロープを伝わる波
この場合、ロープの端が『波源』となって、発生した波が媒質であるロープを伝わるのです。
そして、波源の振動の数だけ波が発生しますよ。
波源を上下に3回連続して振動させましょう。
すると、山と谷のような形を1つずつ持った波が3つ連続で生まれるわけです。
図3 ロープの波源を3回連続して上下に振動させたときの波
図3のように波源を何度も振動させてできた連続した波を『連続波(れんぞくは)』と呼びますよ。
図2のように波源が1度だけ振動してできた孤立した波のことは、『パルス波』または『孤立波(こりつは)』と呼びます。
『波』のイメージはできてきましたか?
さて、波は媒質を伝わっていきますが、このことについて詳しく見ていきましょう。
波の伝わり方と媒質の動き
波の伝わり方と媒質の関係について、きちんと理解しなければならないことがありますよ。
- 波形は媒質を伝わって横方向に移動する
- 媒質の各点は上下振動するだけ
「え?波は横方向に伝わるのに、媒質は上下に動くってどういうこと?」
ちょっと不思議ですよね!
具体的な例を見て考えていきましょう。
スポーツ観戦で見られるウェーブを想像してください。
媒質の各点のことを『媒質点(ばいしつてん)』と言いますが、この場合の媒質点は1人1人の人ですね。
さあ、横一列に並んだ人たちがウェーブを始めました!
端の人から順に、立ち上がった後座る、という動作をしますね。
この動作が隣の人に伝わっていけば、自然と波の形が横方向に移動していきます。
全体でみると、波が進んでいるように見えますね。
ですが、1人(媒質点)に注目すると、その人は立って座る=上下方向に振動しているだけですよ。
人(媒質点)が横方向に動かなくても、波形は横方向に移動しているわけですね。
図4 ウェーブの移動と人(媒質点)の動き
次は、ロープ上を伝わる波について見てみますね。
ロープ上を波が右向きに進んでいますよ。
ここで、ロープ上のある1点の動きに注目してみましょう。
図5 ロープ上を伝わる波とロープ上の1点の動き
ロープ上の1点は上下振動しかしていませんね。
ロープの各点が上下振動することで、全体として波形が横方向に伝わるのです。
「媒質点は上下振動するだけだが、全体として見ると波形は平行移動する」というイメージはつかめましたか?
次は、波の特徴を表す色々な用語を学んでいきましょう!
波の表し方
波形
波の形=『波形(はけい)』には、色々な種類があります。
凹凸に見える矩形波(くけいは)、三角に見える三角波(さんかくは)、のこぎりの刃のようにギザギザののこぎり波・・・
高校物理で扱う波形は、数学で出てくる三角関数sin(サイン)のグラフの形になる『正弦波(せいげんは)』なので、覚えておいてくださいね。
図6 正弦波の波形
媒質の静止していた位置からのずれを波の『変位(へんい)』と言いますよ。
そして、変位が一番高くなるところを『山』、一番低くなるところを『谷』と呼びます。
正弦波は、縄跳びのロープを揺らして作ったり、水面を伝わる波として見ることが多いので、なじみやすいかもしれませんね。
この正弦波を使って、波を表す用語を説明していきますよ。
波長と振幅
正弦波がずらーっとつながって右向きに進んでいる連続波を考えましょう。
図7 波の表し方
「谷1つ+山1つ」または「山と山の間」または「谷と谷の間」を1つの波として数えます。
この波1つ分の長さを『波長(はちょう)』と言い、λ(ラムダ)で表しますよ。
単位は長さを表す[m]や[cm]などを使います。
そして、変位の最大値(山の高さまたは谷の深さ)のことを『振幅(しんぷく)』と呼び、
A(振幅”amplitude”に由来)で表すことがあります。
単位は長さを表す[m]や[cm]などを使いますよ。
次は、媒質の振動を表す用語を説明しますね。
振動数と周期
媒質が1秒間に振動する回数を『振動数(しんどうすう)』または『周波数(しゅうはすう)』と言い、f(振動数”frequency”に由来)で表します。
単位は[Hz](ヘルツ)で、ドイツの物理学者ハインリヒ・ヘルツさんにちなんでいますよ。
ロープの例で考えてみましょうか。
ロープを上下に1回ずつ振動させると、波が1つできますね。
上に1回+下に1回振ることを「1回の振動」と言いますよ。
図8 ロープの振動数
- 1秒間に1回振動すると波が1つ生じる⇒1 Hz
- 1秒間に3回振動すると波が3つ生じる⇒3 Hz
となりますね。つまり、
- 1秒間にゆっくり振動させる⇒振動数fが小さい
- 1秒間に速く振動させる⇒振動数fが大きい
それから、媒質が1回振動するのにかかる時間を『周期(しゅうき)』と言い、T(時間”time”に由来)で表します。
単位は[s](秒)ですよ。
- ロープをゆっくり振動させる⇒周期Tが長い
- ロープを速く振動させる⇒周期Tが短い
まとめると、
- 媒質をゆっくり振動させる⇒周期Tが長く振動数fが小さい
- 媒質を速く振動させる⇒周期Tが短く振動数fが大きい
振動数と周期の間に関係がありそうですね。
振動数と周期の定義をもう一度見てみましょう。
- 振動数:媒質が1秒間に振動する回数
- 周期:媒質が1回振動するのにかかる時間
そうすると、1秒間にf回振動すれば、1回の振動にかかる時間(周期)Tは
T=\(\frac{1}{f}\)
となりますね。つまり、
fT=1
この式から、[Hz]=[1/s]であることも分かります。
例えば、1回振動するのに0.5秒かかる(周期0.5 s)としますよ。
このとき、振動数は何Hzでしょうか?
振動数fを求めるので、f=\(\frac{1}{T}\)からf=\(\frac{1}{0.5 s}\)=2.0 Hzとなります。
つまり、媒質は1秒間に2回振動すると分かりますね。
T=\(\frac{1}{f}\)またはfT=1の関係式は重要なので必ず覚えてください!
最後に、波の速さv(速度”velocity”に由来)、振動数f(または周期T)、波長λの関係を表す『波の基本式(きほんしき)』について学びましょう!
波の基本式
「波の速さ」や「波の伝わる速さ」とは、波形が伝わる速さのことです。
媒質の振動の速さではありませんよ。
さて、波の伝わる速さは媒質の種類によって決まるのです。
同じ媒質であれば波は等速直線運動をするんですよ。
つまり、波の速さv=(波の進んだ距離)÷(かかる時間)と求められるわけですね。
例えば、下図のように波が5.0秒間に1.0 m右向きに進んだとしますよ。
図9 波の速さ
そうすると、波の速さv=\(\frac{1.0 m}{5.0 s}\)=0.20 m/s(メートル毎秒)ですね。
波の速さについて、物理学的な表し方をしてみましょうか。
波源が1回振動すると、波は1波長分進みますね。
つまり、時間が周期T[s]経つと波は波長λ[m]だけ進むわけです。
図10 波の基本式
そして、波の速さ=距離÷時間なので、波の速さv[m/s]は
v=\(\frac{λ}{T}\)=f λ
となりますよ。
[m/s]=[m]/[s]なので単位の関係も合っていますね。
この式を『波の基本式』と呼びます。
波動分野ではよく使われる式なので、しっかり覚えましょうね。
さて、波の速さv、振動数f、波長λの関係をもう少し見ていきますよ。
図11 波の速さvと振動数fと波長λの関係
v=f λの関係から、次のことが分かりますね(∝は比例関係を表す記号)。
①波長λが一定(v∝f):振動数fが大きいほど速さvが大きい
②振動数fが一定(v∝λ):波長λが大きいほど速さvが大きい
③速さvが一定(f∝\(\frac{1}{\lambda}\)):振動数fが大きいほど波長λが小さい
図を描いて確認してみましょう。
①波長λが一定(v∝f):振動数fが大きいほど速さvが大きい
図12 波長λが一定の場合
波長λ=1.0 mのとき、振動数f=1.0 Hzなら波の速さv=1.0 m/sですね。
同じ波長のまま振動数f=3.0 Hzと大きくなると、波の速さv=3.0 m/sと大きくなります。
②振動数fが一定(v∝λ):波長λが大きいほど速さvが大きい
図13 振動数fが一定の場合
振動数f=3.0 Hzのとき、波長λ=1.0 mなら波の速さv=3.0 m/sですね。
同じ振動数のまま波長λ=2.0 mと大きくなると、波の速さv=6.0 m/sと大きくなります。
③速さvが一定(f∝\(\frac{1}{\lambda}\)):振動数fが大きいほど波長λが小さい
図14 波の速さvが一定の場合
波の速さv=3.0 m/sのとき、振動数f=1.0 Hzなら波長λ=3.0 mですね。
同じ速さのまま振動数f=3.0 Hzと大きくなると、波長λ=1.0 mと小さくなります。
波の定義や波の基本式を最初にしっかり理解しておけば、波動分野はこわくありませんよ。
では、一緒に例題を解いて理解を深めましょう!
例題で理解!
時刻t=0 sのとき下図①のようにA点を通過し始め、1.0秒後には下図②のような波形になった。
波の振幅[m]、振動数[Hz]、周期[s]、波長[m]、速さ[m/s]を求めよ。
図15 例題の連続波
振幅は変位の最大値(山の高さ、谷の深さ)のことなので、図①から1.0 mですね。
図16 振幅
波の振幅は振れ幅のことではありませんよ。
振れ幅と間違えて、谷から山までの高さである2.0 mとはしないでくださいね。
振動数は、1秒間に振動する回数のことでしたね。
1回振動すると波が1つ生じます。
図17 振動数
t=0 sからt=1.0 sまでの1.0秒間に波が5つ生じていますよ。
なので、振動数は5.0 Hzとなりますね。
周期は、1回振動するのにかかる時間ですね。
周期T[s]と振動数f[Hz]の関係式T=\(\frac{1}{f}\)から、
周期T=\(\frac{1}{5.0}\)=0.20 sとなるわけです。
波長は、波1つ分の長さのことですね。
図18 波長
図②を見ると、20 mの間に波が5つありますよ。
なので、波長は20÷5=4.0 mです。
最後に、波の速さを求めましょう。
波の速さを表す式v=\(\frac{λ}{T}\)=f λから、
v=5.0 Hz×4.0 m=20 m/sですね。
図から波の速さを求めることもできますよ。
速さ=距離÷時間なので、波が1秒間に進む距離が分かれば良いわけです。
なので、波のどこか1点に注目して、その点が1秒間にどれだけの距離を移動するか見てみましょう。
図19 1.0秒間には波が進んだ距離
t=0 sでA点にあった●は、1.0秒後はどこにいるでしょうか?
波は右向きに進み、1.0秒後には20 m進んでいますね。
なので、速さv=距離÷時間=20 m÷1.0 s=20 m/sとなるわけです。
波を表す2つの公式T=\(\frac{1}{f}\)とv=\(\frac{λ}{T}\)=f λは必ず覚えてくださいね。
ただし、公式を使わなくても波形をよく見れば分かる情報もありますよ。
では、理解度チェックテストにチャレンジです!
波動理解度チェックテスト
【問1】
下図のように、ある連続波がピンと張ったロープを伝わって右向きに進んでいる。
時刻t=0 sのとき下図①のようにA点を通過し始め、1.0秒後には下図②のような波形になった。
波の振幅[m]、振動数[Hz]、周期[s]、波長[m]、速さ[m/s]を求めよ。
まとめ
今回は、波についてお話しました。
波は、
- 波源(振動を始めた場所)の振動や変化が媒質(波を伝える物質)を通じて周りに次々と伝わる現象
- 波形は横方向に平行移動するが媒質点は上下振動する
正弦波とは、
- 波形がsin関数(正弦曲線)となる波
周期T[s](媒質が1回振動するのにかかる時間)と振動数f [Hz](1秒間に媒質が振動する回数)の関係は、
- T=\(\frac{1}{f}\)またはfT=1
波の伝わる速さv[m/s]、波長λ[m](山と山または谷と谷の間の距離)、周期T[s]、振動数f[Hz]の関係は、
- 波の基本式:v=\(\frac{λ}{T}\)=f λ
周期と振動数の関係式と波の基本式には、波を表す全てが詰め込まれていますよ。
しっかり覚えてくださいね。