
今回は、鉛直方向の落下運動の3つ目、『鉛直投げ上げ(えんちょくなげあげ)』について学びましょう。
『鉛直投げ上げ』は読んで字のごとく、鉛直上向き、つまり真上に投げ上げた物体の運動ですよ。
何か物体を真上に投げ上げたところをイメージしてください。
消しゴムや小石を真上に投げ上げてみてもいいですよ。
(自分や他人に当てないように!)
物体を真上に投げ上げると、最高点に達した後、真下に落下してきます。
なので、落下運動なんですね。
そして、鉛直上向きに上昇している間も、鉛直下向きに落下している間も、物体は重力(じゅうりょく)だけを受けて運動していますね。
ですから、『鉛直投げ上げ』は重力加速度(じゅうりょくかそくど)を持つ等加速度直線運動なんですよ。
目次
鉛直投げ上げ
鉛直投げ上げとは
『鉛直投げ上げ』は、物体に勢いをつけて鉛直上向きに投げ上げると、最高点で一瞬止まった後、鉛直下向きに落ちてくる落下運動ですね。
これ、負の等加速度直線運動にそっくりなんです。
加速度が負の等加速度直線運動では、物体は減速しながらx軸正の向きに運動し、その後ターンして、加速しながらx軸負の向きに運動しましたね。
この運動を鉛直方向にして、重力加速度g(重力”gravity”の頭文字)を負にしたのが『鉛直投げ上げ』なんですよ。
『鉛直投げ上げ』の物理学的な条件はこうなります。
- 初速度v0≠0
- 鉛直下向きの加速度が-g=-9.8 m/s2(メートル毎秒毎秒)
図1 鉛直投げ上げ
はじめに勢いをつけて鉛直上向きに投げ上げるので、初速度v0(vは速度”velocity”の頭文字)の向きは鉛直上向きですね。
なので、初速度の向きである鉛直上向きを正にとります。
そして、物体は地球から鉛直下向きの重力を受けていますね。
重力加速度も鉛直下向きですから負の値になりますよ。
鉛直投げ上げでは物体の初速度の向きである鉛直上向きを正として、鉛直下向きの重力加速度が負の値-g=-9.8 m/s2となるわけです。
なので、鉛直投げ上げの公式は、初速度v0で加速度を重力加速度-gに置きかえた等加速度直線運動の式と同じになりますよ。
それから、鉛直投げ上げにはこんな特徴があります。
覚えておくと便利ですよ。
- 最高点でv=0
- 投げ上げ点に戻るときの速度-v0は初速度v0と同じ大きさで向きは逆
- 「投げ上げた点から最高点到達までの時間」=「最高点到達から投げ上げた点に戻る時間」
では、グラフを描いて速度や位置を求める式を導き出し、鉛直投げ上げ運動の意味を理解しましょう!
鉛直投げ上げのグラフと公式
v–tグラフと速度を求める式
図1の運動をv–tグラフにしてみましょう。
初速度v0、重力加速度-gの等加速度直線運動のv–tグラフになりますよ。
つまり、毎秒gずつ速度が減少する右下がりの直線になりますね。
図2 鉛直投げ上げのv–tグラフ
このv–tグラフから、時刻tでの速度vは、
v=v0-gt
であることが分かります。
v–tグラフには、速度v>0、v=0、v<0の領域がありますね。
図3 鉛直投げ上げのv–tグラフ
v>0では、正の向きに運動しながら時間とともにvの大きさは減っていきます。
なので、鉛直上向きに上昇しながら減速しているのですね。
次に、v=0になる時刻は投げ上げられた物体が最高点に達する時刻です。
それは、0=v0-gtからt=\(\frac{v_{0}}{g}\)ですよ。
その後、v<0では、負の向きに運動しながら時間とともにvの大きさは増えていきますね。
なので、鉛直下向きに落下しながら加速しているわけです。
そして、物体は投げ上げられた点y0に戻ってきますね。
y0に戻ってくるときの速度は、鉛直下向きで大きさは初速度と同じ-v0でした。
y0に戻ってくる時刻、つまりv=-v0になる時刻は、-v0=v0-gtからt=\(\frac{2v_{0}}{g}\)ですよ。
「投げ上げた点から最高点到達までの時間」=「最高点到達から投げ上げた点に戻るまでの時間」になっていますね!
次は、v–tグラフから時刻tでの位置yを求めてみましょう!
v–tグラフと位置を求める式
v–tグラフと横軸で囲まれた面積は、y0(t=0での位置)からの変位Δy(Δ(デルタ)は変化量を表すギリシャ文字)ですね。
そこから、時刻tでの位置yを求めますよ。
その前に、鉛直方向の「変位」と「位置」の関係について図で整理しておきますね。
鉛直投げ上げでは、上昇するときと落下するときの変位の符号が違いますよ。
鉛直方向の変位と位置
鉛直投げ上げでは、初速度の向きである鉛直上向きを正としますね。
つまり、上昇するときは鉛直上向きに、落下するときは鉛直下向きに運動するわけです。
鉛直上向きを正として、(1)(2)の場合を考えましょう。
(1)位置y0(時刻t=0)から鉛直上向きに運動して位置y(時刻t)に着く
(2)位置y0(時刻t=0)から鉛直下向きに運動して位置y(時刻t)に着く
時刻t=0から時刻tまでの変位Δy=y-y0と、時刻tでは位置yはこういう関係になりますね。
図4 鉛直方向に運動する物体の変位Δyと位置y
鉛直上向きに上昇するときは変位Δy>0ですが、鉛直下向きに落下するときはΔy<0なのですね。
そして、時刻tでの位置yと変位Δy=y-y0が一致するのはy0=0(原点)のときだけです!
鉛直投げ上げの問題では、時刻t=0で投げ上げられた点y0を原点とすることが多いですよ。
でも、y0と原点がずれる場合があるので注意です!
それでは、v–tグラフから時刻tでの位置yを求めましょう。
v–tグラフから求める変位と位置
v–tグラフと横軸で囲まれた面積から、
- 鉛直上向きに上昇しながら減速する間の変位
- 鉛直下向きに落下しながら加速する間の変位
が読み取れますよ。
図5 鉛直投げ上げのv–tグラフの面積と変位の関係
実際に、時刻tでの変位Δyを求めてみましょうか。
図6 時刻tでの変位Δy
図6で色をつけた台形の面積が時刻tでの変位Δyになるので、
面積=Δy=y-y0=\(\frac{t}{2}\)(v0+v)=\(\frac{t}{2}\)(2v0-gt)=v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2
つまり、時刻t=0に位置y0から投げ上げられた物体が時刻tに達する位置yは、
y=y0+v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2
ここでは最高点に達する前の時刻tを使って位置yを求める式を導きました。
最高点を過ぎた後の時刻tを使って位置yを求めても同じ式になりますよ。
この式を使って、鉛直上向きに投げ上げられた物体の位置の時間変化を表すy–tグラフを描きましょう!
図7 鉛直投げ上げのy–tグラフ
最高点に達する時刻(v=0)を軸に対称なグラフですね。
なので、「投げ上げた点から最高点到達までの時間」=「最高点到達から投げ上げた点に戻るまでの時間」だと分かりますね。
実際に、y=y0に戻るときの時刻を求めてみましょうか。
y0=y0+v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2なので、
0=v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2=(v0-\(\frac{1}{2}\)gt)t
t=0、\(\frac{2v_{0}}{g}\)と2つの時刻が求まりますね。
t=0は投げ上げた時刻なので、y=y0に戻るときの時刻はt=\(\frac{2v_{0}}{g}\)ですよ。
そして、y=y0に戻るときの速度は、v=v0-gt=v0-g×\(\frac{2v_{0}}{g}\)=-v0
y=y0に戻るときの速度は、初速度と同じ大きさで逆向きになっていますね。
次に、最高点の位置を求めてみましょう。
最高点に達する時刻(v=0になる時刻)は、t=\(\frac{v_{0}}{g}\)でしたね。
すると、最高点の位置は、y=y0+v0×\(\left(\frac{v_{0}}{g}\right)\)-\(\frac{1}{2}\)×g×\(\left(\frac{v_{0}}{g}\right)^{2}\)=y0+\(\frac{v_{0}^{2}}{2g}\)となりますよ。
最後に、vとyの関係を表す式を導いておきましょう。
v=v0-gtから、t=\(\frac{v_{0}-v}{g}\)ですね。
これをy=y0+v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2に代入すると、
v2-v02=-2g(y-y0)
が導かれますよ。
数式だけで計算すると、「いまいちピンとこないなあ」という人もいるでしょう。
さっそく、一緒に例題を解いてみましょう!
例題で理解!
重力加速度g=9.8 m/s2とする。
(1)投げてから小石が地面に着くまでにかかった時間を求めよ。
(2)小石が地面に着く直前の速さを求めよ。
(3)小石が上昇した最高点の高さは地面から何mか求めよ。
「小石を19.6 m/sで鉛直上向きに投げ上げる」ので、鉛直投げ上げの問題ですね。
問題文に出てくる数値で一番小さい有効桁数は2桁なので、答えも有効数字2桁にしましょう。
さて、問題文の状況を整理⇒図を描く⇒グラフを描くの流れで解いていきましょう!
まず、問題文に書かれている状況は、
- 地面は小石を投げ上げた地点よりも24.5 m低い
- 初速度v0=19.6 m/s、重力加速度-g=-9.8 m/s2で鉛直上向きに投げ上げ
- 小石はビルに当たらず地面に落ちる⇒重力以外の力は受けない
この状況を図にしてみましょう。
小石を投げ上げた点を原点とすると、地面は原点よりも24.5 m低い場所ですね。
なので、鉛直上向きを正とすると、地面の位置y=-24.5 mとなります。
図8 ビルの屋上(原点)から小石を鉛直上向きに投げ上げる
この鉛直投げ上げのv–tグラフとy–tグラフをざっくり描きましょう。
初速度v0=19.6 m/s、重力加速度-9.8 m/s2の等加速度直線運動のv–tグラフですね。
なので、時刻tでの速度v=v0-gt=19.6-9.8tとなるわけです。
「最高点(v=0)に達する時刻」「原点に戻る時刻」「原点に戻るときの速度」も求めておきましょう。
最高点(v=0)に達する時刻は、0=19.6-9.8tからt=2.0 sですよ。
原点に戻る時刻はその2倍なので、t=4.0 sとなるわけです。
そして、原点に戻るときの速度は-19.6 m/sですね。
そうすると、v–tグラフとy–tグラフはこうなりますよ。
図9 例題1のv–tグラフとy–tグラフ
ここまでそろったら、問題を解いていきましょう!
(1)投げてから小石が地面に着くまでにかかった時間を求めよ。
図9で言えば、地面に落ちる時刻t1を求めるわけですね。
そして、投げ上げ点(原点)に戻る時刻から時刻t1までの変位Δy=-24.5 mです。
①v–tグラフから解く
原点に戻ってから地面に着くまでの変位Δy=-24.5 mは、図9で紫色の台形の面積になりますね。
台形の面積=-24.5=\(\frac{1}{2}\)×(-19.6+v1)×(t1-4.0)となります。
v1=v0-gt1=19.6-9.8t1なので、
-24.5=\(\frac{1}{2}\)×(-19.6+19.6-9.8t1)×(t1-4.0)
4.9t12-4.0×4.9t1-24.5=0
t12-4t1-5=0
(t1-5)(t1+1)=0
t=5、t=-1ですが、求めたい時刻はt>0ですね。
なのでt=5、つまり5.0 sですよ。
②位置を求める式から解く
y=y0+v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2から、-24.5=19.6t-\(\frac{1}{2}\)×9.8t2
9.8t2-19.6t-49=0
t2-4t-5=0
(t-5)(t+1)=0
求めたい時刻はt>0なのでt=5、つまり5.0 sです。
(2)小石が地面に着く直前の速さを求めよ。
地面に着く時刻t1での速度v1を求めます。
v1=v0-gt1=19.6-9.8×5.0=-29.4 m/s
なので、速さは29 m/sですね。
求めるのは速度ではなく速さなので、大きさだけを答えますよ。
(3)小石が上昇した最高点の高さは地面から何mか求めよ。
最高点yhに達する時刻は2.0 sですね。
そのときの最高点を求めます。
①v–tグラフから解く
最高点から地面に着くまでの変位は、図10の紫色の三角形の面積になりますね。
図10 例題1のv–tグラフ
三角形の面積=\(\frac{1}{2}\)×(-29.4)×3.0=-44.1
変位の絶対値が求める高さなので、44.1=44 m
②位置を求める式から解く
投げ上げた点から最高点までの高さは、0-v02=-2gyなので、
y=\(\frac{v_{0}^{2}}{2g}\)=\(\frac{19.6^{2}}{2×9.8}\)=19.6 m
求める高さは、19.6+24.5=44.1=44 m
次は、鉛直投げ上げと自由落下、鉛直投げ下ろしを組み合わせた問題ですよ!
同時に、物体Aの真上80 mの高さから物体Bを初速度21 m/sで鉛直下向きに投げ下ろした。
そうすると、物体Aと物体Bは地面から40 mの高さで衝突した。
重力加速度の大きさg=9.8 m/s2として、物体Aの初速度の大きさを求めよ。
問題文の状況を整理⇒図を描く⇒グラフを描くの流れで解いていきましょう!
まず、問題文に書かれている状況は、
- 物体Aは初速度v0≠0で地面から鉛直上向きに投げ上げられた
- 同時に物体Bは物体Aの真上80 mから初速度21 m/sで鉛直投げ下ろし
- 物体Aと物体Bは地面から高さ40 mで衝突
鉛直投げ上げと鉛直投げ下ろしが同時に起きていますね。
そして、y軸が与えられていないので自分でy軸を決めます。
地面を原点として、物体Aの初速度の向きである鉛直上向きを正とするy軸を立てますよ。
なので、鉛直下向きの重力加速度は-g=-9.8 m/s2となりますね。
鉛直投げ下ろしする物体Bの重力加速度も-g=-9.8 m/s2ですよ。
そして、物体Bの初速度は鉛直下向きなのでvB0=-21 m/sとなります。
この状況を図にしてみましょう。
衝突時刻t1、Aの初速度vA0、Bの初速度vB0=-21 m/s、Aの初期位置yA0=0 m、Bの初期位置yB0=80 mとしますよ。
図11 例題2の図
t=0からt1までのAの変位ΔyA=40、t=0からt1までのBの変位ΔyB=-40となりますね。
では、問題を解いていきましょう!
①v–tグラフから解く
Aの速度vA=vA0-gt=vA0-9.8t、Bの速度vB=vB0-gt=-21-9.8tですね。
AとBのv–tグラフはこうなりますよ。
図12 例題2のv–tグラフ
t1までのAの変位ΔyAは緑色の台形の面積、t1までのBの変位ΔyBは紫色の台形の面積ですね。
ΔyA=\(\frac{t_{1}}{2}\)(vA1+vA0)=\(\frac{t_{1}}{2}\)(2vA0-9.8t1)=vA0t1-4.9t12=40
ΔyB=\(\frac{t_{1}}{2}\)(vB1+vB0)=\(\frac{t_{1}}{2}\)(2vB0-9.8t1)=-21t1-4.9t12=-40
ΔyBの式から、4.9t12+21t1-40=0
49t12+210t1-400=0
(7t1-10)(7t1+40)=0
t1>0なので、t1=\(\frac{10}{7}\) s
t1をΔyAの式に代入して、
vA0×(\(\frac{10}{7}\))-4.9×(\(\frac{10}{7}\))2=40
なので、vA0=35 m/s
②位置を求める式で解く
衝突した時刻t1、Aの初速度vA0、Bの初速度vB0=-21 m/s、Aの初期位置yA0=0 m、Bの初期位置yB0=80 mとしますよ。
すると、Aの位置yAとBの位置yBはこう表されます。
yA=yA0+vA0t1-\(\frac{1}{2}\)gt12=vA0t1-4.9t12
yB=yB0+vB0t1-\(\frac{1}{2}\)gt12=80-21t1-4.9t12
AとBが衝突した位置は40 mですね。
なので、yB=40=80-21t1-4.9t12より、
4.9t12+21t1-40=0
49t12+210t1-400=0
(7t1-10)(7t1+40)=0
t1>0なので、t1=\(\frac{10}{7}\) s
yAの式に代入すると、
vA0t1-4.9t12=40
vA0×(\(\frac{10}{7}\))-4.9×(\(\frac{10}{7}\))2=40
なので、vA0=35 m/s
問題文で説明されている運動の向きを正しく理解できないと、解き方を間違えてしまいますよ。
慣れないうちは、問題文の図とv–tグラフを描くと良いですよ。
それでは、理解度チェックテストにチャレンジしましょう!
鉛直投げ上げ理解度チェックテスト
【問1】
地面から物体Aを初速度49 m/sで鉛直上向きに投げ上げた。
同時に、物体Aの真上で地面からの高さ98 mの地点から、物体Bを自由落下させた。
重力加速度の大きさg=9.8 m/s2として、次の問いに答えよ。
(1)物体Aと物体Bが衝突するまでの時間t1 [s]と衝突点の地面からの高さh1 [m] (2)衝突したときに物体Bから見た物体Aの速さvBA [m]
まとめ
今回は、鉛直投げ上げ運動についてお話しました。
鉛直投げ上げ運動とは、
- 初速度v0で鉛直上向きに投げ上げた物体の運動
- 最高点でv=0
- 投げ上げ点に戻るときの速度-v0は初速度v0と同じ大きさで向きは逆
- 「投げ上げた点から最高点到達までの時間」=「最高点到達から投げ上げた点に戻る時間」
鉛直投げ上げを表す式は、
- v=v0-gt(時刻tでの速度)
- y=y0+v0t-\(\frac{1}{2}\)gt2(時刻tでの位置)
- v2-v02=-2g(y-y0)(vとyの関係)
鉛直方向の落下運動では、鉛直上向きと鉛直下向きのどちらが正かによって、重力加速度や運動の向きや変位の符号が変わりますよ。
自分で決めた軸を忘れないようにしてくださいね。
次回は、力と力のつり合いについてお話しますね。
こちらへどうぞ。