
今回は、『摩擦力(まさつりょく)』について学びましょう。
物体と接する面との間に働く『接触力(せっしょくりょく)』の1つですね。
『摩擦力』と言えば、荷物を押して動かしたいのに床との摩擦で動かない、とか、すべり台との摩擦でスムーズにすべらない、なんてことが思い浮かびませんか?
摩擦力は物体の動きを妨げるやっかいな力というイメージがあるかもしれませんね。
でも、もし摩擦力が無かったら?
人間は歩くことができず、鉛筆で文字を書くこともできず、自転車や自動車のタイヤは空回りして進まず、ブレーキだって使えなくなりますよ。
摩擦力は、やっかいものどころか、私たちの生活に欠かせない力なのですね。
当然、物理現象を考えるときにも必要不可欠な力です!
物理学では、『摩擦力』を3種類に分けて考えますよ。
- 物体を押しても静止しているときの摩擦力が『静止摩擦力(せいしまさつりょく)』
- 物体が動き出すときの摩擦力が『最大摩擦力(さいだいまさつりょく)』
- 物体が動いているときの摩擦力が『動摩擦力(どうまさつりょく)』
それから、摩擦力は力なので単位は[N](ニュートン)ですね。
それでは、『摩擦力』について見ていきましょう!
目次
摩擦力の基本
摩擦力の向き
水平な床の上に置かれた物体を押すことを考えてみましょうか。
はじめは弱い力で押しても、摩擦力が働くので動きませんね。
例えば、荷物を右向きに押すと、摩擦力は荷物が動かないように左向きに働くからです。
つまり、摩擦力は物体が動く向きと反対向きに働くのですね。
図1 物体を押す力の向きと摩擦力の向き
さあ、押す力をどんどん強くしていきましょう。
すると、どこかで物体がズルッと動き出しますね。
一度物体が動くと、動く直前に押していた力よりも小さい力で物体を動かせるようになりますね。
でも、動いているときにもずっと摩擦力が働いているんですよ。
図2 物体を押す様子と摩擦力
ところで、経験的に分かると思いますが、摩擦力の大きさは荷物の質量や床面のざらざら具合によって変わりますよね。
例えば、机の上に置かれた空のマグカップを押して横に移動させるのは楽にできます。
そのマグカップになみなみとお茶を注いだら?
重くなったマグカップを押して横に移動させるには、さっきよりも強い力が要りますね。
摩擦力が大きくなったようですよ。
通路にある重い荷物を力いっぱい押してもなかなか動きません。
でも、表面がつるつるしたシートの上にのせると、小さい力で押してもスーッと動きます。
摩擦力が小さくなったようですね。
摩擦力の大きさは、どういう条件で決まるのでしょうか?
摩擦力の大きさを決める条件
摩擦力の大きさは「接触面の状態」×「面を押しつける力」という2つの条件で決まります。
それぞれの条件と摩擦力の関係を見ていきましょう。
摩擦力と接触面の状態
例えば、スケートリンクのようにつるつるな面の上に置かれた物体は小さい力で動かすことができますね。
つるつるな面の摩擦力は小さいからです。
同じ物体をざらざらな粗い(あらい)面上に置きましょう。
この物体を動かすには、大きい力で押さなければなりません。
ざらざらな面の摩擦力は大きいからですね。
図3 つるつるな面とざらざらな面の上に置かれた物体を動かす力
高校物理で扱う摩擦にはこういうお約束があるので覚えておきましょうね。
- 「ざらざらした面」「粗い(あらい)面」:摩擦のある面なので摩擦力を考える
- 「なめらかな面」:摩擦の無い面なので摩擦力は0とみなす
次は、摩擦力の大きさを決めるもう1つの条件「面を押しつける力」について見ていきましょう。
摩擦力と面を押しつける力
面を押しつける力が強いと摩擦力は大きくなりますよ。
質量m(質量”mass”に由来)の物体を水平な面に置きましょう。
重力加速度をg(重力”gravity”に由来)とすると、「面を押しつける力」=「物体にかかる重力mg」ですね。
さらに上から押さえつけると、面を押しつける力は大きくなります。
そうすると、経験的に、物体を動かすために必要な力が大きくなることが分かりますね。
なので、摩擦力も大きくなるわけです。
図4 面を押しつける力
そして、図4から、「面を押しつける力」と「垂直抗力N(垂直抗力”normal force”に由来)」は作用反作用の関係にあることが分かります。
つまり、「面を押しつける力」と「垂直抗力」は大きさが同じで向きが反対なんですね。
まとめると、垂直抗力が大きくなると摩擦力が大きくなるという関係性があるのです!
後から出てくるので、覚えておいてくださいね。
それから、摩擦力と垂直抗力の合力を『抗力(こうりょく)』と言い、R(抗力”reaction”に由来)で表しますよ。
つまり、摩擦力は抗力の水平成分で、垂直抗力は抗力の垂直成分なんですね。
図5 摩擦力と垂直抗力と抗力
摩擦力の基本が分かったところで、いよいよ3種類の摩擦力について学んでいきましょう。
まずは『静止摩擦力』からです!
静止摩擦力と最大摩擦力と動摩擦力
静止摩擦力
水平でざらざらした床の上に置かれた物体を、横から押してみましょう。
動かないので、加える力をどんどん強くしていきますが、物体は静止したままです。
物体に力を加えているのに静止したままなのは、物体に摩擦力が働いているからですね。
このように、物体が動き出さないようにする力が『静止摩擦力』です。
そして、物体が静止したままなので、加えた力と静止摩擦力はつり合っているわけですね。
つまり、静止摩擦力は加える力と同じ大きさで加える力と反対向きなのです。
物体に働く力を書き出して確かめてみましょう。
ざらざらした床に置かれた質量mの物体に、横から大きさF(力”force”に由来)の外力(がいりょく)を加えても、物体は静止したままです。
このときの物体に働く力は図6のようになりますね。
静止摩擦力をf、垂直抗力をN、重力加速度gとしますよ。
図6 静止した物体に働く力
垂直方向の力のつり合いはN=mgですね。
水平方向は加えた外力Fと静止摩擦力fがつり合うので、F=fとなるわけです。
10 N(ニュートン)で押しても物体が動かなければ静止摩擦力も10 N、
50 Nで押しても物体が動かなければ静止摩擦力も50 N、
100 Nで押しても物体が動かなければ静止摩擦力も100 Nなんですね。
つまり、加える外力が大きくなるほど静止摩擦力は大きくなるのです。
図7 外力Fと静止摩擦力の関係
静止摩擦力の大きさは力のつり合いの関係から求めることができますよ。
次は、物体が動き出す直前に働く『最大摩擦力』について見ていきましょう!
最大摩擦力と静止摩擦係数
図6の物体に加える外力をどんどん強くしていきますよ。
物体が動かない間は、加える外力が大きくなるほど静止摩擦力も大きくなりますね。
さて、静止摩擦力はずーっと永遠に大きくなり続けるでしょうか?
そんなことありませんよね。
重い物体でも、大きい力を加えれば必ず動き出します。
この「物体が動き出す瞬間」の条件は何なのでしょうか?
それは、加える外力が静止摩擦力を越えることですね。
言い換えると、物体に働く静止摩擦力には最大値があるわけです。
この静止摩擦力の最大値が『最大(静止)摩擦力』なんですね。
図8 静止摩擦力と最大摩擦力f0
最大摩擦力の大きさから、物体が動くか動かないかが分かりますよ。
- 最大摩擦力≧加えた力(=静止摩擦力)なら物体は動かない
- 最大摩擦力<加えた力なら物体は動く
さて、静止摩擦力の大きさは加える力によって変化しましたね。
ですが、その最大値である最大摩擦力は計算で求められるのです。
最大摩擦力f0は、『静止摩擦係数(せいしまさつけいすう)』と呼ばれる定数μ(ミュー)と物体に働く垂直抗力Nの積で表せることが分かっていますよ。
f0=μN
摩擦力の大きさを決める条件は、「接触面の状態」×「面を押しつける力」でしたね。
「接触面の状態」は、物体と面の材質で決まる静止摩擦係数μが表します。
静止摩擦係数μは、言ってみれば、面のざらざら具合を表す定数ですよ。
そして、「面を押しつける力の大きさ」=「垂直抗力Nの大きさ」ですよね。
なので、最大摩擦力f0=μNと表せるわけです。
次は、とうとう動き出した物体に働く『動摩擦力』を見ていきます!
動摩擦力と動摩擦係数
加えた外力が最大摩擦力を越えて、物体が動き出しましたよ。
一度動き出すと、動き出す直前より小さい力でも動くので楽ですよね。
ということは、摩擦力は消えてしまったのでしょうか?
いいえ、動き出すまでは静止摩擦力が働いていたのですが、動き出した後は『動摩擦力』に変わったのです!
動摩擦力は、「動いている物体に働く摩擦力」ですよ。
物体が動く向きと反対向きの力です。
図9 動いている物体に働く動摩擦力f′
動摩擦力f′の大きさは、『動摩擦係数(どうまさつけいすう)』と呼ばれる定数μ′と物体に働く垂直抗力Nの積で求められますよ。
動摩擦係数μ′は、静止摩擦係数μと同じように物体と面の材質で決まる定数です。
f′=μ′N
最大摩擦力とそっくりな、「接触面の状態」×「面を押しつける力」の式になっていますね。
動摩擦力の大きさは、最大摩擦力より小さくて一定の値になるんですよ。
外力が変わると値が変化する静止摩擦力との大きな違いですね。
図10 動摩擦力と外力F
そして、動摩擦力f′と外力Fの大きさによって物体の運動はこのように変わりますよ(詳しくは運動方程式で扱います)。
- 動摩擦力f′=外力F(力のつり合い):物体は等速で動いている
- 動摩擦力f′<外力F:物体は加速している
- 動摩擦力f′>外力F:物体は減速している
図11 動摩擦力f′と外力Fと物体の運動
スキーをすべるときは、動摩擦力をうまく利用しているんですよ。
スキー板にかける力を変えることで、加速したり減速したり等速ですべることができます。
これは、動摩擦力の値が一定だからできることなんですね。
もし動摩擦力が無かったら、加速や減速、方向転換ができなくなってしまいますよ。
では、3つの摩擦力と2つの摩擦係数の関係をまとめましょう!
静止摩擦力と最大摩擦力と動摩擦力の関係
ざらざらな面の上に置かれた物体を外力Fで押しますよ。
物体に働く摩擦力と外力Fの関係はこういうグラフになりますね。
図12 摩擦力と外力の関係
動摩擦力f′は最大摩擦力f0より小さく、
f0>f′
f0=μN、f′=μ′Nなので、
μ>μ′
となりますね。
このように、動摩擦係数μ′は静止摩擦係数μより小さいことが知られていますよ。
例えば、鉄と鉄の静止摩擦係数μ=0.70くらいですが、動摩擦係数μ′=0.50くらいとちょっと小さいのです。
これが、物体を動かした後の方が楽に押すことができる理由なんですね。
では、一緒に例題を解いて理解を深めましょう!
例題で理解!
このとき、物体は静止している。
重力加速度の大きさをg、静止摩擦係数をμとして以下の問いに答えよ。
(1)物体に働く垂直抗力の大きさを求めよ。
(2)物体に働く摩擦力の大きさを求めよ。
(3)加える力を大きくして物体が動き出すときの摩擦力の大きさを求めよ。
物体はどういう状態か?によって、求める摩擦力の種類が変わってきますよ。
ざっくりまとめるとこんな感じですね。
- 「静止している」「静止したまま」⇒静止摩擦力
- 「動き出すとき」「動き出した」「すべり出した」⇒最大摩擦力
- 「動いている」「すべっている」⇒動摩擦力
そして、問題文のはじめの方に「物体は静止している」と書かれています。
なので、まずは静止中の物体に働く力を全て書き出しましょう。
物体の重力mg、垂直抗力N、横から加えられる力F、静止摩擦力fがありますね。
図13 静止中の物体に働く力
(1)物体に働く垂直抗力の大きさを求めよ。
物体の垂直方向の力のつり合いから、
垂直抗力N=mgですね。
(2)物体に働く摩擦力の大きさを求めよ。
静止摩擦係数と垂直抗力が出てきたからといって、静止摩擦力=最大摩擦力μNとはなりませんよ。
最大摩擦力は物体が動き出すとき摩擦力ですよね。
ここで求めたいのは、「静止している」物体に働く静止摩擦力です。
こういうときは、力のつり合いから摩擦力を求めましょう。
水平方向の力のつり合いから、静止摩擦力f=Fですね。
(3)加える力を大きくして物体が動き出すときの摩擦力の大きさを求めよ。
物体が動き出すときに働く力はこうなりますね。
図14 動き出すときの物体に働く力
動き出すときに物体を押す力の大きさは分かっていません。
すると、摩擦力は力のつり合いから求められませんね。
さて、求めたいのは物体が「動き出すとき」の摩擦力です。
まさにこれが最大摩擦力μNですよ!
なので、求める摩擦力の大きさは、μN=μmgとなるわけです。
では、次の例題を解いてみましょう!
仕上げに、理解度チェックテストにチャレンジです!
摩擦力理解度チェックテスト
【問1】
水平面の上に質量2.0 kgの物体を置いた。
物体に水平に右向きの力Fを加える。
物体をすべらせるために必要な力Fの大きさは何Nより大きければよいか。
静止摩擦係数は0.50、重力加速度gは9.8 m/s2とする。
まとめ
今回は、摩擦力についてお話しました。
静止摩擦力は、
- 力を加えても静止している物体に働く摩擦力
- 力のつり合いから静止摩擦力の大きさが求められる
最大(静止)摩擦力f0は、
- 物体が動き出す直前の摩擦力で静止摩擦力の最大値
- f0=μN(μ:静止摩擦係数、N:垂直抗力)
動摩擦力f′は、
- 運動している物体に働く摩擦力
- f′=μ′N(μ′:動摩擦係数、N:垂直抗力)
最大摩擦力f0と動摩擦力f′の関係は、
- f0>f′なのでμ>μ′
「静止摩擦力を求めよ」と問題文に書いてあっても、最大摩擦力μNの計算だ!と思い込んではいけませんよ!
静止摩擦力は「静止している」物体に働く摩擦力で、最大摩擦力は「動き出す直前」の物体に働く摩擦力です。
違いをしっかり理解しましょうね。