静電誘導と誘電分極の違いとは?原理をイメージで解説!

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静電気(せいでんき)が発生する仕組みは、こちらでお話しましたね。

 

髪の毛を下敷きでこすると、髪の毛から下敷きに電気が移動します。
髪の毛は正に帯電(たいでん)し、下敷きは負に帯電するので、引きつけ合うわけですね。
物体同士を直接こすり合わせて、2つの物体を帯電させたから、引きつけ合うのでした。

 

あれ?ちょっと待ってください。
セーターで下敷きをこすって帯電させた後、髪の毛に近づけたら逆立ちますよね。

 

髪の毛は電気的に中性で帯電していないし、下敷きと直接くっついていませんよ。
なぜ髪の毛は下敷きに引き寄せられてくるのでしょうね?

 

タネも仕掛けもちゃんとありますよ。

 

それを理解するポイントが、『静電誘導(せいでんゆうどう)』と『誘電分極(ゆうでんぶんきょく)』と呼ばれる現象なんですね。

 

目次

静電誘導と誘電分極

導体と不導体は引き寄せられ具合が違う?

静電誘導』と『誘電分極』についてひも解く前に、ちょっと実験してみましょうか。

 

セーターで下敷きをこすって、下敷きを帯電させますよ。
帯電していないアルミ箔とティッシュを同じ大きさに小さくちぎって、机の上に置いてくださいね。
(2枚合わせのティッシュは、はがして1枚にします)

 

アルミ箔とティッシュの上に下敷きを近づけてみましょう。
下敷きを直接くっつけていないのに、アルミ箔もティッシュも下敷きに吸いついてきます。
帯電した下敷きに、帯電していない髪の毛が引き寄せられたのと同じですね。

 

アルミ箔は導体(どうたい)で、ティッシュは不導体(ふどうたい)ですよね。
帯電体を近づけると、導体も不導体も引きつけられるなんて、何が起きているのでしょうか?

 

正確には、「帯電体に導体は引き寄せられて、不導体は少し引き寄せられている」のです。

 

ティッシュはアルミ箔より軽いですね。
ティッシュをアルミ箔と同じ重さにすると、下敷きへの引き寄せられ方がちょっと弱くなりますよ。

 

導体と不導体で引き寄せられ具合がちょっと違うということは、「引き寄せられる仕組み」がちょっと違うみたいですね。

 

帯電体を近づけたとき、導体が引き寄せられる仕組みを『静電誘導』、不導体が引き寄せられる仕組みを『誘導分極』と言って区別しているんですよ。

 

導体の静電誘導とは

導体の右側から、正に帯電した帯電体(たいでんたい)を近づけてみましょう。

 

図1 導体の静電誘導(正の帯電体を近づけた場合)

 

導体中の電子(でんし)は自由に動けますよね。
電子は、帯電体の正の電荷(でんか)に引かれて帯電体の近くに移動します。

 

帯電体に近い側に電子がびっしりと集まるので、反対側には陽イオンがびっしりと現れますね。
つまり、帯電体に近い側には負の電荷が、反対側には正の電荷が現れるわけです。

 

そうすると、正の帯電体と導体の電子の間に引力が働くので、導体は帯電体に引き寄せられますよね。

 

帯電体を導体に近づけたとき、帯電体に近い側に、帯電体とは反対の電荷がびっしりと現れる現象が『静電誘導』なのです。

 

次は、負に帯電した帯電体を導体に近づけたときを考えてみましょう。

 

図2 導体の静電誘導(負の帯電体を近づけた場合)

 

導体中の自由電子は自由に動けるので、帯電体の負の電気に反発して帯電体の反対側に移動します。

 

帯電体から遠い側に電子がびっしりと集まるので、帯電体に近い側には陽イオンがびっしりと現れますね。
つまり、帯電体に近い側には正の電荷が、反対側には負の電荷が現れるわけです。

 

そうすると、負の帯電体と導体の間に引力が働くので、導体は帯電体に引き寄せられますよね。

 

帯電体の正負がどちらでも、導体の中では静電誘導が起こりますよ。
ですから、帯電体に導体は引き寄せられるのですね。

 

では、不導体の『誘電分極』はどういう仕組みなのでしょう?

 

不導体の誘電分極とは

不導体の右側から、正に帯電した帯電体を近づけてみましょう。

 

図3 不導体の誘電分極(正の帯電体を近づけた場合)

 

不導体中の電子は、原子核(げんしかく)の周囲くらいしか動けませんよね。
でも、電子は帯電体の正の電荷に引かれて、帯電体の近くに行きたいのです。
原子核が許す範囲で、めいっぱい帯電体に近づこうとしますよ。

 

なので、原子がちょっとひずんで、電荷の分布がちょっとずれるわけですね。
そうすると、帯電体に近い表面に負の電荷が少しだけ現れて、反対側には正の電荷が少しだけ現れるのです。

 

正の帯電体と不導体の表面に少しだけ現れた負の電荷の間に引力が働きますね。
ですから、不導体は帯電体に少し引き寄せられるわけです。

 

帯電体を不導体に近づけたとき、電荷の分布がずれて、帯電体に近い側に、帯電体とは反対の電荷が少しだけ現れる現象が『誘電分極』なのですね。

 

次に、負に帯電した帯電体を不導体に近づけたときを考えてみましょう。

 

図4 不導体の誘電分極(負の帯電体を近づけた場合)

 

不導体中の電子は、帯電体の負の電荷に反発して、帯電体から遠ざかろうとしますね。
原子核が許す範囲で、めいっぱい帯電体から遠ざかろうとしますよ。

 

なので、原子がちょっとひずんで、電荷の分布がちょっとずれるわけですね。
そうすると、帯電体から遠い表面に負の電荷が少しだけ現れて、近い側には正の電荷が少しだけ現れるのです。

 

負の帯電体と不導体の表面に少しだけ現れた正の電荷の間に引力が働きますね。
ですから、不導体は帯電体に少し引き寄せられるわけです。

 

帯電体の正負がどちらでも、不導体の中では誘電分極が起こりますよ。
ですから、帯電体に不導体は少し引き寄せられるのですね。

 

 

というわけで、『静電誘導』と『誘電分極』の違いは、導体と不導体の違いである、電子が自由に動けるか、原子核の周りくらいしか動けないかが関わっているわけです。

 

飼い主(原子核)と犬(電子)のイメージで考えてみましょうか。

 

導体の中では、飼い主と犬はリードでつながれていませんね。
右側に美味しいエサ(正電荷)を見つけた犬は、飼い主から離れて、一目散に右へ走って行ってしまいます。

 

でも、不導体の中では、飼い主と犬はリードでつながれていますね。
なので、右側に美味しいエサ(正電荷)を見つけても、リードをめいっぱいギューッと引っぱれるところまでしか動けないわけです。

 

図5 静電誘導と誘電分極での原子核と電子のイメージ

 

 

では、例題で理解を深めましょう!

 

例題で理解!

例題
電気的に中性な薄い膜に、正に帯電した棒を近づけると、薄い膜は棒に引きつけられる。
薄い膜(アルミ箔 セロファン)が棒に引きつけられたときに起こる現象は、次のどちらになるか答えよ。
(1)引きつけられた後、くっついたまま 
(2)引きつけられた後、はじかれる

 


 

アルミ箔は導体で、セロファンは不導体ですね。
ですから、帯電体である棒を近づけると、

 

  • アルミ箔には静電誘導
  • セロファンには誘電分極

 

が起こりますよ。

 

これを頭に入れて、考えていきましょう!

 

<アルミ箔の場合>

正に帯電した棒をアルミ箔に近づけた場合、何が起こるか図にしてみました。

 

図6 正に帯電した棒をアルミ箔に近づけた場合

 

(a)~(d)で起こっていることを説明しますね。

 

(a)帯電体である棒が近づくと、導体のアルミ箔には静電誘導が起こりますね。
アルミ箔の中で棒に近い部分には負の自由電子が集まり、反対側には正の陽イオンが現れます。
正に帯電した棒は、アルミ箔の自由電子を引きつけるので、アルミ箔はフワフワと浮いて棒にくっつきますよ。

 

(b)アルミ箔が棒にくっつくと、アルミ箔の自由電子は棒に移動するのです。
そして、移動した自由電子は、棒にある正の電気の一部と打ち消し合いますね。

 

(c)アルミ箔に残った正の電気と、棒にある正の電気が反発し合います。

 

(d)ですから、アルミ箔ははじかれてしまうわけですね。

 

<セロファンの場合>

正に帯電した棒をセロファンに近づけた場合は、こうなりますよ。

 

図7 正に帯電した棒をセロファンに近づけた場合

 

(a)~(c)で起こっていることを説明しますね。

 

(a)帯電体である棒が近づくと、不導体のセロファンには誘電分極が起こりますね。
セロファンの中で、棒に近い部分には、少しだけ負の電気が現れて、反対側には正の電気が現れます。
正に帯電した棒は、セロファンの負の電気を引きつけるので、セロファンはフワフワと浮いて棒にくっつきますよ。

 

(b)セロファンが棒にくっついても、セロファンの中の電子は原子核から自由に離れられません。
そうすると、電子はセロファンに残ったままですね。

 

(c)ですから、セロファンは棒にくっついたままになるわけです。

 

 

静電誘導と誘電分極の原理は分かりましたか?
それでは、理解度チェックテストにチャレンジしてみましょう!

 

静電誘導と誘電分極理解度チェックテスト

【問1】
次の文章(1)(2)の(ア)~(オ)に入る語句を下の選択肢から選べ。

(1)下図のように、正に帯電した棒を帯電していない不導体に近づける。
そうすると、(ア)が起こるので棒と不導体の間に(イ)が働く。

 

 

(2)下図(a)のように、帯電していない導体AとBを接触させたまま、負に帯電した棒を近づける。そうすると、(ウ)が起こるので棒と導体Bの間に(エ)が働く。
次に、下図(b)のように棒を近づけたまま、周囲との電荷のやり取りがないように導体AとBを離し、その後に棒を取り除く。
さらにその後、下図(c)のように導体AとBを十分離すと、導体Aは(オ)。

 

 

【選択肢】
(ア)静電誘導・誘電分極
(イ)引力・斥力
(ウ)静電誘導・誘電分極
(エ)引力・斥力
(オ)正に帯電している・負に帯電している・帯電していない

解答・解説を見る
【解答】
(1)(ア)誘電分極 (イ)引力 
(2)(ウ)静電誘導 (エ)引力 (オ)負に帯電している

【解説】
(1)正に帯電した棒を帯電していない不導体に近づけているので、(ア)誘電分極が起こる。
不導体には正に帯電した棒と逆の電気が生じるので、(イ)引力が働く。

 

 

(2)負に帯電した棒を帯電していない導体に近づけているので、(ウ)静電誘導が起こる。
負に帯電した棒を近づけたので、自由電子は導体Aに移動して導体Aは負に帯電する。
導体Bは正に帯電するので、棒と導体Bの間に(エ)引力が働く。
負に帯電した棒を近づけたまま導体Aと導体Bを離すので、導体Aは(オ)負に帯電し、導体Bは正に帯電したままである。

 

まとめ

今回は、静電誘導と誘電分極についてお話しました。

 

静電誘導は、

  • 導体に帯電体を近づけると、帯電体に近い側に帯電体とは反対の電荷がびっしり現れる現象

 

誘電分極は、

  • 不導体に帯電体を近づけると、電荷の分布がずれて、帯電体に近い側に帯電体とは反対の電荷が少しだけ現れる現象

 

静電誘導と誘電分極は似ているようで違いますよね。
その違いのポイントは、電子の動き方です。
ここで、しっかりマスターしておきましょう!

 

次回は、箔検電器の原理についてお話しますね。
こちらへどうぞ。

 

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