
冷たいものを触ったあとや寒い日には、手がすっかり冷えてしまいますね。
そんな時、思わずやってしまうことがありませんか?
そう、手をこすり合わせますよね。
すると、手がだんだん温まってきます。
さて、どうしてでしょう?
昔の科学者たちも懸命に考えました。
そして、こんな結論にたどりついたのです。
「手をこするという運動エネルギーが熱エネルギーに変わったんだ!」
「エネルギーはどこかに逃げずに、別のエネルギーに変身することができるんだ!」
熱エネルギーをものを動かすエネルギーに変身させて動かしているのが蒸気機関車なんです。
石炭を燃やして熱を得てお湯を沸かすと水蒸気が発生しますよね。
水が水蒸気になると、体積は約1700倍に膨張して機関車のピストンを押します。
その力で機関車の車輪を動かし、列車を引っ張っているのです。
あんな重いものを動かすエネルギーを生み出せるなんて、ビックリですよね。
熱エネルギーはどこにも逃げずに、ものを動かすエネルギーなどに形を変えていることが分かりましたね。
これが『熱力学第1法則』の大事なポイントです。
固体・液体・気体の全てで成り立ちます。
ただし、固体や液体は熱をもらっても体積が大きく変わらないので、法則の例として分かりにくいのです。
ですから、体積変化が分かりやすい気体を使って、『熱力学第1法則』を理解していきましょう。
目次
熱力学第1法則とは?登場人物は3人!
熱力学第1法則の定義とイメージ
科学者たちが決めた熱力学第1法則の定義は、こんな表現です。
『気体に外部から熱量Q [J]を加えると、気体の内部エネルギーはΔU [J]だけ変化し、外部にW [J]の仕事をする』
何かの暗号文でピンとこない、分かりにくい、という人が多いのではないでしょうか?
登場人物が「気体が得た熱量Q」「気体の内部エネルギーの変化ΔU」「気体がした仕事W」の3人だということと、全てエネルギーなのでエネルギーの単位[J](ジュール)を持つことを頭に入れておいてくださいね。
気体を私たち人間を同じようにイメージすると、分かりやすくなりますよ。
人間はご飯を食べてエネルギーを得ます。
そしてやる気や力が湧いたり体内に蓄えたりして、勉強や仕事や遊びなどの活動をしますよね。
図1 人間の活動
次は気体について考えてみましょう。
変化が分かりやすいように、円筒容器となめらかに動くピストンでできたシリンダーの中に閉じ込めた気体を用意しますね。
気体は、ご飯の代わりに「熱」をもらいます。
すると、温度が上がって気体分子の熱運動が激しくなり、気体内部にエネルギーとして蓄えられるのですね。
また、気体の熱運動が激しくなるとピストンが外に向かって押し出されます。
つまり、気体が外部に仕事をしたというわけです。
人間の活動とそっくりですよね。
図2 熱力学第1法則のイメージ
では、熱力学第1法則の登場人物について、詳しく見ていきましょう。
熱量
熱力学第1法則では、気体が吸収したまたは放出した熱量Q(熱量”quantity of heat”に由来)を正負の符号で表しますよ。
「気体に100 Jの熱量を与えた」なら、Q=100 Jです。
「気体が100 Jの熱量を放出した」なら、Q=―100 Jとなるのです。
- 温められて熱量を吸収すれば、吸収したQの値は正(Q>0)
- 冷やされて熱量を放出すれば、放出したQの値は負(Q<0)
というわけですね。
次は、内部エネルギーについて見ていきましょう。
気体の内部エネルギー
あらゆる物体は原子や分子といった小さな粒子でできています。
そして、温度が高いほど激しく熱運動するのでしたね。
ある物体をつくっている原子や分子の熱運動が激しいということは、その物体がエネルギーをたくさん持っている、つまり、エネルギーは大きいと考えられます。
そこで、昔の科学者たちはこれを『内部エネルギー』と名づけ、U(由来は不明)と表すことにしました。
エネルギーなので、単位は[J]です。
この話をまとめると、
- 温度が高いほど原子や分子の熱運動は激しくなる
- 熱運動が激しいほど内部エネルギーは大きくなる
のですから、
温度が高いほど物体の内部エネルギーは大きい
ということですね!
つまり、こういうイメージです。
図3 気体の温度と内部エネルギーの関係
また、温度が上がれば内部エネルギーは増加するし、温度が下がれば内部エネルギーは減少することが分かりますね。
逆に、内部エネルギーが増加すれば温度が上がるし、内部エネルギーが減少すれば温度は下がるのです。
ここからは、温度の増減をΔT(Tは温度”temperature”に由来、Δ(デルタ)は変化量を表すギリシャ文字)、内部エネルギーの変化量をΔUと表すことにしますね。
ΔTとΔUを使って、温度変化と内部エネルギーの変化の関係をまとめますよ。
- 気体の温度が上昇(ΔT>0)⇔気体の内部エネルギーが増加(ΔU>0)
- 気体の温度が低下(ΔT<0)⇔気体の内部エネルギーが減少(ΔU<0)
次は、仕事について学びましょう。
気体がした仕事
熱力学第1法則のイメージ(図2)では、気体の熱運動が激しくなって気体の体積が増えて、ピストンを外向きに押し出していましたね。
物理では、ある物体に力を加えてその物体が動くと「物体に仕事をした」と言うのでした。
ですから、体積が増えた気体がピストンに力を加えてピストンを動かしたので、「気体は外部に仕事をした」わけです。
逆に、外からピストンを押すと気体の体積が減りますね。
外部からピストンに力を加えて気体の体積を減らす向きに動かしたので、「気体は外部から仕事をされた」わけです。
気体の体積が増加したとき「気体は仕事をした」と言い、気体の体積が減少したとき「気体は仕事をされた」と言いますよ。
こういうイメージですね。
図4 気体の体積変化と気体がした・された仕事の関係
このことを、体積変化ΔV(体積”volume”に由来)と気体がした仕事W(仕事”work”に由来)を使って表してみますね。
- 気体の体積が増加(ΔV>0)⇔気体は仕事をした(W>0)
- 気体の体積が減少(ΔV<0)⇔気体は仕事をされた(W<0)
いよいよ、気体が得た熱量Q、気体の内部エネルギーの変化ΔU、気体がした仕事Wの関係をまとめますよ!
熱力学第1法則の公式
気体は熱量Qを得ると、温度が上がって内部エネルギーがΔUだけ変化したり、体積が増えて外部にWの仕事をしたりするのでしたね。
この関係を式で表すとこうなります。
Q=ΔU+W
気体が得た熱量Qは、内部エネルギーΔUや仕事Wに形を変えているというわけです。
これが熱力学第1法則なのです。
熱量はどこにも逃げず形を変えただけ、と言っていますから、エネルギー保存則の1つでもあるのですね。
熱力学第1法則は2つある?
ここまで読んで、「あれ?教科書に載ってる熱力学第1法則の式と違う?」と混乱した人もいますよね。
熱力学第1法則には、2通りの表現があります。
どちらも正しくて、視点がちょっと違うだけですよ。
熱力学第1法則のもう一つの表し方はこうなります。
ΔU=Q+W
この式の左辺をQにすると、最初に出てきた式と同じ形になるでしょうか?
Q=ΔU―W
全く違いますね。
Wの符号が違うところがポイントです!
ΔU=Q+Wの科学的な定義は、
『気体が外部から熱量Q [J]を加えられ、外部からW [J]の仕事をされると、気体の内部エネルギーはΔU [J]だけ変化する』
こういうイメージになります。
図5 熱力学第1法則(ΔU=Q+W)のイメージ
気体が熱量Qを得て、さらに外部からピストンが押し込まれて体積が減少するというWの仕事をされています。
熱量を得ると温度が上がって気体分子の熱運動が激しくなるので、内部エネルギーは増加しますね。
しかも、外部から仕事をされて体積が減るので、気体分子は容器の壁や分子同士とぶつかりやすくなります。
つまり、熱運動が激しくなって内部エネルギーは増加するわけですね。
ΔU=Q+Wの意味は、気体の内部エネルギーの変化は、得た熱量とされた仕事のおかげだということです。
気体が得た熱量Qとされた仕事Wが、内部エネルギーの変化ΔUに形を変えているのですね。
さて、Q=ΔU+Wとの大きな違いに気づきましたか?
そう、「気体がした仕事」ではなく逆の「気体がされた仕事」に注目していることですね。
ですから、Wの符号が逆になるのです。
では、エネルギーの流れを考えて、2つの式を比べてみましょう。
※スマートフォンでは横スクロールすると表がすべて見られます。
Q=ΔU+W | ΔU=Q+W |
Q:気体が吸収した熱量 |
Q:気体が吸収した熱量 |
気体が吸収した熱量がどのように使われたかを表す 気体に外部から熱量Qを加える |
内部エネルギーが変化したのは、どのようなエネルギーを吸収したからかを表す 気体に外部から熱量Qを加える |
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|
2つの式の違いは、仕事Wの定義です。
- Q=ΔU+Wでは、体積が増加(ΔV>0)する「気体がした仕事」Wが正(W>0)
- ΔU=Q+Wでは、体積が減少(ΔV<0)する「気体がされた仕事」Wが正(W>0)
つまり、「した仕事」が正なら「された仕事」が負、「された仕事」が正なら「した仕事」が負になるという逆の関係にあるのです!
熱力学第1法則を表す2つの式についてまとめておきましょう。
ポイントはWの定義が違うことでしたね。
※スマートフォンでは横スクロールすると表がすべて見られます。
Q=ΔU+W | ΔU=Q+W | |
Q | 気体が熱量を吸収:Q>0 気体が熱量を放出:Q<0 気体と外部での熱量のやり取りがない:Q=0 |
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ΔU | 気体の温度が上昇(ΔT>0)⇔ΔU>0 気体の温度が低下(ΔT<0)⇔ΔU<0 気体の温度が一定(ΔT=0)⇔ΔU=0 |
|
W | 体積増加(ΔV>0)⇔気体がした仕事W>0 体積減少(ΔV<0)⇔気体がされた仕事W<0 体積一定(ΔV=0)⇔W=0 |
体積増加(ΔV>0)⇔気体がした仕事W<0 体積減少(ΔV<0)⇔気体がされた仕事W>0 体積一定(ΔV=0)⇔W=0 |
「気体が仕事をした」のか「気体が仕事をされた」のかは問題によって違っています。
問題文からどちらなのかしっかりと読み取りましょうね。
そして、Wがどちらなのか答案にもきちんと書いておくといいですね。
では、例題を解いて理解を深めましょう。
例題で理解!
②次に、加熱はせずに外力がピストンを押し込んで100 Jの仕事をした。 気体の内部エネルギーが50 J増加したとすると、外部との熱のやり取りはどうなるか。
③最後に、シリンダー内の温度が一定になるように調節しながら、シリンダーを加熱し、気体に150 Jの熱量を与えた。 内部エネルギーの変化ΔUと気体が外部へした仕事Wはどうなるか。
Q=ΔU+Wを使って解く
気体が外部にした仕事Wが正(W>0)になります。
①を図示すると、こうなります。
気体が得た熱量Q=200 J、気体がした仕事W=40 Jです。
Q=ΔU+Wより、
200=ΔU+40
ΔU=160
気体に蓄えられた内部エネルギーは160 Jです。
②を図示すると、こうなります。
内部エネルギーは50 J増加したので、ΔU=50 Jですね。
ここでは外力が100 Jの仕事をした、つまり、気体は仕事をされたのでWは負になります。
W=―100 Jということです。
ΔU=ΔU+Wより、
Q=50+(―100)=―50
Qが負なので、気体は50 Jの熱量を外部へ放出したわけですね。
③温度が一定ということは、気体の内部エネルギーは増加も減少もしません。
つまり、ΔU=0となります。
そして、気体は150 Jの熱量を得たので、Q=150 Jです。
Q=ΔU+Wより、
150=0+W
W=150
Wが正なので、気体が外部にした仕事になります。
内部エネルギーの変化ΔUは0 Jで、気体が外部にした仕事Wは150 Jとなりますね。
ΔU=Q+Wを使って解く
気体が外部からされた仕事Wが正(W>0)になります。
①を図示すると、こうなります。
気体が得た熱量Q=200 J、気体がされた仕事W=―40 Jです。
ΔU=Q+Wより、
ΔU=200+(―40)=160
気体に蓄えられた内部エネルギーは160 Jです。
②を図示すると、こうなります。
内部エネルギーは50 J増加したので、ΔU=50 Jですね。
ここでは外力が100 Jの仕事をした、つまり、気体は仕事をされたのでWは正になります。
W=100 Jということです。
ΔU=Q+Wより、
50=Q+100
Q=―50
Qが負なので、気体は50 Jの熱量を外部へ放出したわけですね。
③温度が一定ということは、気体の内部エネルギーは増加も減少もしません。
つまり、ΔU=0となります。
そして、気体は150 Jの熱量を得たので、Q=150 Jです。
ΔU=Q+Wより、
0=150+W
W=―150
Wが負なので、気体が外部へした仕事になります。
内部エネルギーの変化ΔUは0 Jで、気体が外部へした仕事Wは150 Jとなりますね。
Q=ΔU+WとΔU=Q+W、どちらの解き方でも、結果はちゃんと同じになりますね!
最後に、理解度チェックテストを解いてみましょう!
熱力学第1法則理解度チェックテスト
【問1】
図のように円筒容器となめらかに動くピストンで囲まれた空間に気体が閉じ込められている。
(1)気体の圧力を一定に保ちながら気体に400 Jの熱量を与えると、気体の体積は増加して外部に200 Jの仕事をした。気体の内部エネルギーの変化は何Jか。
(2)気体の体積を一定に保ちながら気体に400 Jの熱量を与えた。気体の内部エネルギーの変化は何Jか。
(3)気体の温度を一定に保ちながら気体に400 Jの熱量を与えた。気体が外部にした仕事は何Jか。
(4)円筒容器とピストンを断熱材で囲み、外部との熱のやり取りがない状態にした。外部から気体に200 Jの仕事をすると、内部エネルギーの変化は何Jか。
まとめ
今回は、熱力学第1法則についてお話しました。
熱力学第1法則とは、
- Q=ΔU+W:気体に熱量Q [J]を加えると、内部エネルギーはΔU [J]だけ変化し、外部にW [J]の仕事をする
- ΔU=Q+W:気体に熱量Q [J]を加え、外部からW [J]の仕事をされると、内部エネルギーはΔU [J]だけ変化する
どちらの式を使う場合でも、仕事Wの向きがポイントですよ。
図に矢印を書きこんでおくと、間違えずに溶けるようになりますよ。
次回は、熱機関と熱効率についてお話しますね。
こちらへどうぞ。