
今回は、『速度の合成(そくどのごうせい)』についてお話しますね。
「速度を合成するって、別々の速度を足し合わせるの?いつそんなことをするの?」
『速度の合成』なんて、いかめしく言うからビックリしますよね。
実は、私たちの身の周りでよくあることなんですよ。
動く歩道を見たことがありますか?
今、動く歩道を眺めていると想像してくださいね。
普通の道路を歩いてきた人が、そのまま動く歩道の上を歩いていきます。
その人が移動する速度は、普通の道路上と動く歩道上のどちらが速いですか?
もちろん、動く歩道の方ですよね。
なぜ動く歩道を歩く方が、人が移動する速度は速くなるのでしょう?
それは、普通の道路上を歩く速度に、動く歩道の速度が加わっているからですね。
なので、動く歩道上の方が移動速度が速くなるわけです。
これが、『速度の合成』なんですよ。
流れる川の上を進む船とか、身近な例が色々ありますね。
目次
速度の合成
『速度の合成』は、その名の通り、「速度を足し合わせること」です。
そして、速度の合成によって求めた速度を『合成速度(ごうせいそくど)』と言いますよ。
では、速度の合成の具体的な例を使って、合成速度の求め方を理解していきましょう。
速度の合成の例
動く歩道を歩く人
速度0.5 m/s(メートル毎秒)で動く歩道がありますよ。
通常の道路上を速度1.0 m/sで歩く人が、この動く歩道を歩いています。
そして、その様子をあなたが外から動かずに見ているとしますね。
動く歩道の上を歩いているので、通常の道路上を歩くよりも速いですよね。
あなたから見たこの人の速度は何m/sでしょうか?
図1 動く歩道を歩く人
この人の歩く速度は、動く歩道の速度の分、速くなっていますね。
つまり、あなたから見たこの人の速度は、
(動く歩道の速度)+(通常の道路上を歩く速度)=0.5 m/s+1.0 m/s=1.5 m/s
となるわけです。
速度を表すv(速度を表す”velocity”の頭文字)を使って物理学的に表現してみましょうか。
『合成速度』は、速度v1で動いている物体の中で速度v2で動いている物体の、外から見たときの速度v=v1+v2なんですね。
この場合だと、v1=動く歩道の速度、v2=通常の道路上を歩く速度にあたりますよ。
続いて、別の例を考えてみましょうか。
川の上を進む船
1.0 m/sで流れる川がありますよ。
そして、船は静水(プールのように流れていない水)では2.0 m/sで進みます。
この船が川下に向けて進んでいるとしますね。
岸から見ると、船の速度は何m/sになりますか?
速度には向きがありますから、ここでは船が進む川下に流れる向きを正としましょう。
つまり、川の流れる速度は1.0 m/sとなりますよ。
図2 川下に進む船
船は静水よりも速く進むだろうな、ということは分かりますね。
それは、川の流れの速度が加わるからです。
そうすると、
船の速度=(川の流れる速度)+(船が静水上で進む速度)=1.0 m/s+2.0 m/s=3.0 m/s
正の値なので、船の速度は川下の向きに3.0 m/sとなるわけですね。
次は、船が逆方向に進む場合を考えてみましょう。
先ほどと同じ川と船を使いますよ。
船は川上に向かって進むとします。
岸から見ると、船の速度は何m/sになりますか?
ここでは船が進む川上に流れる向きを正としましょう。
そうすると、川の流れる速度は-1.0 m/sとなりますよ。
図3 川上に進む船
川の流れに逆らうから、船は静水よりも遅く進むだろうな、ということは分かりますね。
船の速度=(川の流れる速度)+(船が静水上で進む速度)=-1.0 m/s+2.0 m/s=1.0 m/s
船の速度は、川上の向きに1.0 m/sとなるわけですね。
『合成速度』は、速度v1で動いている物体の中で速度v2で動いている物体の、外から見たときの速度v=v1+v2でした。
この場合だと、v1=川の流れる速度、v2=船が静水上で進む速度にあたりますね。
では、『速度の合成』の公式をまとめておきましょう。
速度の合成の公式
速度v1で動いている物体(列車、川など)の中で速度v2で動いている物体(人、船など)の、外から見たときの速度vは、
v=v1+v2
と表されます。
v、v1、v2は速度なので、向きがあることに注意ですよ。
図4 速度の合成(動く歩道の例)
観測者は、動いているどの物体にも乗らず、動かない地面から見ていますね。
動いている物体Aの上で動いている物体Bを、動かない地面から観測した速度が『合成速度』ですよ。
では、例題を一緒に解いてみましょう!
例題で理解!
また、静水(流れていない水)に対して4.0 m/sの速さで進む船がある。
この船が、A地点から川下にあるB地点までの距離60 mを往復する。
(1)船がA地点からB地点に向かうとき、岸から見た船の速度を求めよ。
(2)船がB地点からA地点に向かうとき、岸から見た船の速度を求めよ。
(3)船がAB間を往復するのに何秒かかるか求めよ。
問題文では、「岸から見た船の速度」と動かない地面から観測した速度について聞かれていますね。
ですから、合成速度を求める問題です。
問題文に出てくる数値は有効数字2桁なので、答えも有効数字2桁になりますよ。
合成速度の問題を解くコツは、
- 速度の正の向きを確認する(問題文に書いていなければ自分で決める)
- 問題文を図にしてイメージする
では、図を描いて解いていきましょう。
(1)船がA地点からB地点に向かうとき、岸から見た船の速度を求めよ。
川下のB地点に向かって船が進む場合は、川が流れている分、船は早く進みますね。
船が進む川下の向きを正としましょう。
すると、川の流れる速度は2.0 m/sですね。
図5 川下に進む船
岸から見た船の速度は、(川の流れる速度)+(静水上の船の速度)なので、
4.0 m/s+2.0 m/s= 6.0 m/s
正の値なので、川下の向きに6.0 m/sとなるわけです。
(2)船がB地点からA地点に向かうとき、岸から見た船の速度を求めよ。
川上のA地点に向かって船が進む場合は、川と反対向きなので、船は遅く進みますね。
船が進む川上の向きを正としましょう。
すると、川の流れる速度は-2.0 m/sですね。
図6 川上に進む船
岸から見た船の速度は、(川の流れる速度)+(静水上の船の速度)なので、
4.0 m/s+(-2.0 m/s)= 2.0 m/s
正の値なので、川上の向きに2.0 m/sとなるわけです。
(3)船がAB間を往復するのに何秒かかるか求めよ。
往路のA地点→B地点までかかる時間t1と復路のA地点→B地点までかかる時間t2を求めましょう。
AB間の距離は60 mと分かっているので、速さ=距離÷時間、つまり、時間=距離÷速さから時間が計算できますよ。
そして、速さは、速度の絶対値でしたね。
A地点→B地点までかかる時間t1=(AB間の距離)÷(A地点→B地点までの速さ)なので、
t1=60 m÷6.0 m/s=10 s
B地点→A地点までかかる時間t2=(AB間の距離)÷(B地点→A地点までの速さ)なので、
t1=60 m÷2.0 m/s=30 s
AB間の往復にかかる時間は、t1+t2=10 s+30 s=40 sとなりますよ。
合成速度について理解できましたか?
それでは、理解度チェックテストにチャレンジしましょう!
速度の合成理解度チェックテスト
【問1】
ある船は、静水(流れていない水)に対し、5.0 m/sで進むことができる。
この船が、2.0 m/sで流れる川を進んでいる。
次の問いに答えよ。
(1)船が川下に向かって進む場合、岸から見た船の速度を求めよ。
(2)船が川上に向かって進む場合、岸から見た船の速度を求めよ。
【問2】
速度2.5 m/sで流れる川を、岸から見て6.0 m/sの速度で川下に向かって船が進んでいる。
この船が川上に向かう場合、岸から見た船の速度は何m/sになるか。
まとめ
今回は、合成速度についてお話しました。
合成速度とは、
- 速度v1で動いている物体(列車、川など)の中で速度v2で動いている物体の、外から見た速度v=v1+v2
- 動いている物体の上で動いている物体を、動かない地面から観測した速度
合成速度の問題を解くときは、速度の向きがポイントです。
どの向きが正になるか、ごっちゃにならないように書いておきましょうね。
次回は、動いている物体から別の動いている物体を見たときの速度である相対速度についてお話しますね。
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